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第6弾『六月の風はミントの薫り』

第1章 六月の風はミントの薫り…

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「え、なんでいるの?」

「仕事が早く終わったから、もしかしたらいるかなぁってさぁ…」
 そう言いながら、隣へ並ぶ。

「なんか最近さぁ、避けられてる気がしてさぁ…」
 その言葉に、胸が少し痛くなる。

「避けてない」
 わたしは、即答する。

「でも元気なかった」
 図星だった…
 思わず視線を落とす。

「…だって和哉、全然連絡くれないし…」
 そう言ってしまった後で、子供みたいだと思う…
 でも、和哉は笑わなかった。

「ごめん」
 逆に、真っ直ぐ謝ってくれた。

「なんか全然、毎日に余裕なくて…」

「…わかってる」
 それはわかっている…
 社会人一年生なんだから、余裕なんてあるわけがない…
 それは、十分わかっていた。

 だけど――

「でも、わかってても寂しかった?」
 少し意地悪気な目をして、そう呟く。

 わたしは答えられない…
 だって、それは、わがままだってわかっているから――

 サーー…
 ホームに入ってきた、電車の風が流れ込んできた。
 
 その風には、梅雨の湿った空気と、わたしの吐息のミントの冷たさが混ざる――

「悠里っ」
 不意に、名前を呼ばれた。

「俺、ちゃんと、悠里が好きだよ」
 意外と、静かで冷静な声だった。

 飾り気もなくて、でも誤魔化しもない…
 その言葉だけで、胸の奥に溜まっていた憂鬱が少しずつ溶けていく――

「…ずるい」
 信じられなかった…
 だって、二年間待ち続けた言葉が、あまりにもあっさり届いたから――

「何が?」

「急にそういうこと言うの」
 和哉は、困ったように笑みを浮かべる。

「なんかさ…
 言わないと伝わってないみたいだから…」
 わたしは俯いたまま、小さく笑う。

 純愛なんて、もっと綺麗なものだと思っていた…
 苦しくなくて、不安もなくて、ずっと幸せなものだと。

 でも本当は違う――

 相手の言葉で沈んで…
 また、言葉で救われる。  

 そんな不器用で、少し情けない感情の積み重ねなのかもしれない――

 また、電車がホームへ滑り込んできた…
 六月の風が吹き抜け、口の中のミントがまた少しだけ冷たくなった。

「わたしも…」

「……」

「わたしも、和哉が好き…大好き……」

 鼻の奥が、涙でツンと疼き…
 ミントの爽やかな薫りが抜けてきた――

        完


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