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お題小説第8弾『梅雨の暴走』

第1章 梅雨に濡れ…

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 チン…
 エレベーターが止まり、ボクのほんの僅かな、幸せな時間はあっという間に終わってしまう。

「さぁ、ついたわ」

「………あ」

「ほら、ぐしょ濡れなんだからボーっとしない」
 まるでお姉さんは、この甘いフレグランスに酔い痴れ、鼻の穴を引くつかせているボクを見切ったかの様に、優しい笑みを浮かべながら、そう言ってきた。

「じゃ、啓くん、またね…」

「あ、は、はい…」
 ボクは、その『またね…』という声にも、どぎまぎし、そして、鍵を探す。

「あ、あれ?」
 鍵が、見つからない。

 ガチャン――
 ボクが鍵をカバンから探している間に、隣のお姉さんの部屋のドアが閉まった。

「あっ」
 そうだった――
 今日に限って、今朝、鍵を忘れてしまったのであった。

 朝、通学電車に乗っていると…
『鍵忘れてるよ』
 と、母からのLINEが来ていた。

 そして…
『塾に行くから』

『じゃ、私が先に帰るから大丈夫ね』
 
 大丈夫じゃなかった――

 しかも、雲行きぐ怪しかったので、鍵の事なんてすっかり忘れてしまい、ボクは、慌てて帰ってきたのだった…

「あぁ、やっちゃったよ」
 どうしようか、びしょ濡れだし…
 お母さんはまだ二時間以上帰って来ない。

「ふうぅ」
 いくら初夏、梅雨、蒸し暑いとはいえ、すっかりぐしょ濡れだから寒い…
 ボクは、途方に暮れてしまう。

 ガチャ…
 その時だった。

 隣の部屋のドアが、開き…

「えっ」
 隣のお姉さんが顔を出し、驚きの声を漏らし…
「どうしたの?」
 訊いてきた。

「え、あ、いや、鍵を…忘れちゃて…」

「ええっ、じゃあ、入れないの?」

「あ、は、はい」
 ボクは頷く。

「うわぁ、ほら、さぁっ」
 お姉さんは、半身を出し、手招きをしてくる。

「さぁっ、おいで」

「えっ」

「いいから、さぁっ」

「あ、でも…」

「ほら、風邪引いちゃうからぁっ」

 それは…

 天使の囁き…に聞こえた――

 

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