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My Godness~俺の女神~

第6章 ♯Conflict(葛藤)♯

 悠理は口角を笑みの形に象る。この極上の笑みがどれほど多くの女たちを一瞬で虜にするか、彼はよく知っている。
「ああ、これからまた次に悠理クンに逢えるまで、ひと月も待たなければならないのね。随分と長いひと月だわ」
 眼の前の女―藤堂実沙が甘えた声で悠理にしなだれかかる。
「そんなこと言わないで下さいよ。俺だって、実沙さんに逢えるまでの時間は途方もなく長くって、持て余すくらいなんですから」
 もちろん口先だけの追従にすぎなかったが、実沙の頬が嬉しげに緩んだ。
「まぁ、嬉しいことを言ってくれるのね」
 が、次の瞬間、さっと顔を翳らせ、すり寄ってくる。
「どうせ大勢の女に似た科白を囁いてるくせに」
 悠理は吹き出したいのを堪えるのに苦労しながら、いかにも哀しげな表情を作って見せた。
「酷いことを言うんですね。俺の心が昼も夜も実沙さんだけで一杯なのは判ってるでしょう?」
「フフ、お世辞でも悪い気はしないわね」
 実沙はシャネルのバッグからいつもの長財布を取り出し、一万円札を三枚差し出した。
「これで何か美味しいものでも食べなさい」
 ふと思い出したように言う。
「そういえば、お母さまはお具合は、あれからどう?」
 一瞬、虚を突かれ、悠理は慌てて顔を引き締めた。
 そうか、そういえば、大分前に、お袋の調子が悪いんだとこの女に言ったことがあったっけ。
 しかし、若い男とのアバンチュールを愉しむことしか頭にないだろうと思っていた女が半年以上も前の自分の言葉を憶えているとは思わなかった。
「お陰さまで、最近は大分調子が良いんです。感激だなぁ。実沙さんが俺のお袋のことまで気にかけてくれてたなんて」
「あらぁ、悠理クンのことなら、何でも気になるわよ」
 当たり前でしょ、とでも言いたげなあからさまな秋波をよこされ、悠理は吐き気を憶えた。しかし、嫌悪感を一瞬たりとも客に見せるわけにはゆかない。

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