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My Godness~俺の女神~

第6章 ♯Conflict(葛藤)♯

 そろそろ妊娠も九ヶ月が近くなってきた。ここのところ、自分でも判るくらいお腹は急激に大きくなっている。今は、赤ん坊は一六〇〇グラムくらいだと医師から教えられた。
 結局、実里はあのまま町の小さな病院に通っていた。自宅から近いのと中年の医師が気さくで信頼できる人だったのが大きな要因である。でも、やはりお産はできないので、臨月に入ってから紹介先の総合病院に移ることになっていた。
―もう出てきても、十分大きくなれるところまで成長していますよ。
 この間も、医師がそう言って笑っていた。
 女の子であるということも判っていた。
 私の赤ちゃん、元気で大きくなって生まれてきてね。
 実里は大きくせり出した腹部を愛おしげに撫でた。合図するかのように、胎児が腹壁を元気よく蹴るのが判った。成長めざましい時期なのか、胎動もとみに活発だ。時には蹴られすぎてお腹が痛いほど暴れることもある。
 スーパーには制服はない。実里は防寒も兼ねて厚着をしていた。淡いブルーのハイネックセーターにチャコールグレーのコーデュロイのマタニティスカート。その上に厚手のざっくりとしたカーディガンを羽織っている。 もちろん、スカートの下は厚手のタイツを穿いている。ここまで完全防備でならば、風邪を引く心配もないだろう。
 制服がない代わりに、各自で持参したエプロンをつけている。お腹が大きくなるにつれて、腰の痛みは更に頻発するようになった。以前はそれほどでもなかったのに、少し立っているだけで腰がだるくなり痛み出す。
 実里は拳でトントンと腰を叩き、また背伸びした。箱に詰めている液体洗剤の詰め替え用を棚のいちばん上に順序よく並べていく。たったこれだけの作業が、今の実里にとっては、かなりの難作業となってしまっている。普通では考えられないような手間と時間がかかるのだ。
 仕方ないと、脇にあった小さな台を引き寄せ、その上に上がった。
「これでよし。何とか届くみたい」
 独りごち、台に乗って商品を棚に置いた。刹那、身体が重心を崩して揺らいだ。
「あっ」
 悲鳴を上げたのと誰かの逞しい腕に抱き止められたのはほぼ同時のことだ。
「こんなでかい腹をして、高いところになんか上るんじゃない」

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