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My Godness~俺の女神~

第6章 ♯Conflict(葛藤)♯

 ヒッと実里の口から悲鳴とも何ともつかない声が洩れ出た。その反応は、たとえ彼女が応えずとも、悠理に確信を抱かせるに十分すぎた。
「そんなこと、あなたには関係ないでしょう」
「その赤ん坊の父親が俺だったとしてもか?」
 実里が息を呑んだ。今や、彼女の顔色はすっかり白くなっている。今にも倒れるのではと心配になるくらい血の気を失っていた。
「なあ、頼むから教えてくれ。その赤ん坊は俺の子なのか?」
 悠理が迫ってくる。実里は恐怖に眼を見開いき、後ずさった。
「一緒になろうとは言わない。だが、せめて、子どもの父親だとは認めてくれ。その子を俺の子どもとして認知したい。あんたにも子どもにもできる限りのことをしたいんだ」
 悠理が実里の細い手首を掴む。
 彼が実里の手をしげしげと眺めた。
「あんた、随分と痩せたな。俺があんたを抱いたときには、もっと肉がついて―」
「止めて!」
 実里は掴まれた手をまるで彼の手が汚物でもあるかのように勢いよく引き抜いた。
「あなた、今頃になってよくそんなことが言えるわね。この子は、赤ちゃんは私だけの子です。この子に父親なんて、初めからいないんです。たとえ頼まれって、あなたの世話になんかならないし、力を借りようとも思わないません」
 あなたに縋るくらいなら、お腹の子と一緒に死ぬわ。
 悠理の表情が固まった。口許が引きつり、眼には歪んだ笑みが浮かんでいる。この笑み、自己嫌悪まのまなざしに何かが感じられ、実里は口にしたばかりの言葉をひったくって取り戻したくなった。
 だが、一度発した言葉は二度と取り返せない。
 同じように、自分とこの男の関係も未来永劫、変わりはしないのだ。
 過失とはいえ、妻を轢き殺した女と。
 復讐で女を辱め、身籠もらせた男と。
 そんな二人の人生が交わるはずがない。
 いや、早妃の死という不幸な出来事がきっかけで違う世界で生きていた二人が出逢ったことこそが、大きな悲劇の始まりだったのだ。 実里が早妃を轢き殺したという十字架を背負って、これからの人生を生きてゆかなければならないように、この男もまた、一人の女をレイプし、その人生を滅茶苦茶にしたという事実を抱えていかなければならないのだ。

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