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My Godness~俺の女神~

第2章 ♯Accident♯

 その傍ら、休暇にはヨーロッパやアジアを巡り、埋もれた優良な絵本を探して熱心に翻訳した。
 そして、チャンスはついに巡ってきた。半年前、新しいプロジェクトを立ち上げるという話が社員全員に告知された。社員であれば誰でも応募できる資格があり、そのプロジェクト案の内容をリポートに纏めて提出する社内選抜試験が行われるというものだ。
 採用されれば、新プロジェクトの主要メンバーになれるのはむろんのこと、総合職への復帰、引いては実里が最終目標にしていた編集部への道も拓けるのは判っていた。
 実里は参加を躊躇わなかった。これまで見つけてきた絵本の中から幾つかを選び、自らの翻訳をつけて、これらの絵本を我が社の優秀選定図書として出版することを提案した。実里の考えるプロジェクトの全容はそれだけではなかった。
 まず、新しく刊行する絵本の挿絵を従来のようにプロの絵本作家に頼むのではなく、障害を持ったアマチュアの作家、或いはイラストレーターに頼むというものだ。広く応募者
を募り公的なコンクールで優秀者を選び、その作家に挿絵を依頼する。
 障害者の就労もしくは社会参加をも促し、同時に話題性も高まり、会社の社会への貢献をアピールすることができる。ただ埋もれた良い絵本を日本に広めるというだけでは、さして斬新なアイデアとはいえないかもしれないが、そこに挿絵を任せる作家を公募で、しかも応募者資格を障害者に限定すれば、話はまた違ってくる。
 実里のアイデアは社内選考会で見事に第一位を獲得し、採用されるに至った。むろん、彼女が新プロジェクトの主要メンバーに選ばれたことは言うまでもない。
 実里には短大時代から付き合っている恋人がいる。もうかれこれ八年にもなる付き合いだから、半端ではなく長い。実里のアイデアが採用されたその日、彼女は恋人音無潤平とデートする約束があった。
 実里は待ち合わせた会社の近くのフレンチレストランで早速、潤平に歓びの報告をした。だが。
 話をひととおり聞いた潤平の表情は冴えなかった。
―それで、どうするつもりなんだ?
 眉間に皺を刻んで問う恋人に、実里は小首を傾げた。

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