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My Godness~俺の女神~

第5章 ♯Detection(発覚)♯

 それでも、彼女にしてみれば、自分が身勝手だと思うのは実里の謙虚な人柄によるものだ。この八年間、感情を露わにしたことなどおよそなく、いつもクールさを失わなかった潤平。そんな彼が実里の本音を聞いてもなお、感情を余すところなくさらけ出し、実里にプロポーズしてきた。
 彼を嫌いであれば、八年も付き合うはずもないし、ただ結婚に踏ん切るには、彼への気持ちの中にあと一つだけ足りないものがあるような気していた。
 それが何なのかは実里にも判らない。ただパズルの最後のピースが見つからないような、小さいけれど大切な何かが潤平への想いには含まれておらず、実里はプロポーズに対しての明確な返答を避けていともいえる。
 自分の心の奥底を覗いてみれば、けして新規プロジェクトの件だけが理由ではなかったのだと、今ならはっきりと判る。
 もしかしたら、今なら、まだ間に合うかもしれない。もっとも、潔癖で完璧性を求める潤平の性格からすれば、他の男の子を身ごもった女をこれまで同様、求めてくるとは考えがたかったが。
 だが、どうしようもない状況に置かれた時、
真っ先に思い浮かんだのは彼であり、側にいて欲しいと願うのも彼だ。ならば、後はもう当たって砕けろでいくしかない。
 実里はお腹の子どものことも潤平にきちんと話すつもりだ。生むかどうかは―今のところ、判らない。潤平が堕ろしてくれと望むなら、もちろん、従うつもりでいた。
 妊娠を打ち明けるならば、レイプのことも話さないわけにはゆかないだろう。第一、実里にしても、あの卑劣漢―溝口悠理の子どもなど生みたくはない。愛も労りもなく、ただ憎しみに駆られ、欲情の赴くままに陵辱された末に身籠もった子なんて、こちらから願い下げたいくらいだ。
 実里はF駅まで引き返し、電車に乗った。私鉄沿線でふた駅先で降りる。潤平が両親の住むF町の自宅を出て一人住まいを始めたのは、大学を卒業後、就職してからのことだ。勤務先の広告代理店がこのN町にあるので、N駅前の瀟洒なマンションに暮らしている。
 交際期間は八年に及ぼうとしているが、実のところ、実里がこのマンションを訪ねるのは数えるほどの回数でしかなかった。潤平は
会社に実里が電話してくるのも嫌うし、必要以上に私生活に踏み込まれるのも歓迎しなかったからだ。

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