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Memory of Night 番外編

第2章 Episode of YOI


「ありがとう……」


 やりとりはそれだけだった。

 つぶやくような礼を言って、まだどこか呆然としたままの愛美に、宵は立ち上がり背を向けた。

 だがそこで、教室を出ようとドアに手をかけ、ふと何かを思い出したように振り向いた。


「……あと、昨日はごめん。なんか邪魔しちまったみたいで」


 宵の言葉に、愛美は首をかしげる。なんのことだかわからなかった。

 愛美の表情からその疑問は読み取れたらしく、宵は「明」と一言付け加える。

 ようやく思い当たり、愛美は真っ赤になってぶんぶんと首を振った。




「だ、大丈夫だから……」


 きっと放課後、明を借りていった件だ。

 その後すぐに、逃げるように二人の前から走り去ってしまった自分のことを、彼なりに気にしていてくれたのかもしれない。

 嬉しいと思う反面、とても申し訳なく思えた。


「……わたしの方こそごめんなさい」

「何が?」

「逃げ出して」


 つい本音が口から零れ落ちてしまって、愛美ははっとする。

 こんな言い方をしたら、まるで彼を避けているみたいだ。

 だが、宵は愛美の言葉に気を悪くした様子は見せなかった。

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