テキストサイズ

Memory of Night 番外編

第2章 Episode of YOI


「脅すにしろ誘うにしろ、心の準備くらいしてから来いよ」

「う、うん」


 愛美はこくこくと頷く。

 宵はどうやら怒ってはいないらしい。

 とっさに脅すような言葉を口にしてしまったけれど、愛美の言葉など、彼にとってはたいした強制力にならなかったようだ。

 あっさりと受け流されて、ほっとした分悲しくもなった。

 彼は目的さえあれば、なんの抵抗もなく誰かを抱けるのだろうか?

 先ほどあの女生徒と、ここで一体何をしていたのだろう?

 聞きたいことはたくさんあるのに、どれも言葉にできないことばかりだった。

 口にする勇気がない。

 だから変わりに愛美は一つだけ、宵に自分の秘密を打ち明けることにした。


「――わたし、今週の日曜に引っ越すの」

「引っ越す?」

「……うん。家の都合で。だから学校来るのも明日で最後。転校するから」


 気付くとまた、視線は下を向いていた。

 慌てて顔を上げ、愛美は笑顔を取り繕う。


「だからもういいや! そんなに急に心の準備なんてできないし……! 変なこと言ってごめんなさ……っ」


 目頭が熱くなって、そこで言葉が続かなくなってしまう。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ