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Memory of Night 番外編

第2章 Episode of YOI


 笑顔でいなければ、と思う。

 ここで泣いてしまっては彼に迷惑だろうし、そんなみっともない真似はしたくなかった。

 愛美はふるふると首を振って、滲んでくる涙を引っ込めようと試みた。

 鼻の奥がつんと痛む。

 彼と会えなくなることだけが、悲しいわけではなかった。

 それを引き金にいろんなものが溢れてくる。

 大好きな親友や、せっかく馴染めたクラス、生まれてからずっと住み続けていた町も。

 そういう大切な人や場所とさよならをすることが、愛美にはつらかった。

 仕方のないことなのだと自分の中で区切りをつけ、押し込めていたはずなのに、涙と一緒に溢れてしまいそうになる。

 愛美は服の袖で目をこすり、まなじりに溜まった涙を拭った。

 その時だった。


「なら……土曜は?」


 問いかけられて、腕を下ろす。

 なんのことだかわからずに、目の前に立つ宵を凝視してしまう愛美。

 宵は愛美の頭にぽんと手を置いて、言った。


「今日の分の穴埋めだよ。土曜ならまだこっちにいるんだろ? ……引っ越しの前日じゃ、さすがに忙しいか」

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