淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第6章 祝言の夜
だとすれば、春泉の取るべき道は一つだ。
「判りました。それで小虎を傍に置かせて頂けるのなら、お約束します」
唇を戦慄かせ、春泉は大粒の涙をポロポロ零しながら言った。
と、秀龍の邪気のない笑い声がその場の緊張を和ませた。
「冗談だ、冗談だよ。春泉、少し悪戯が過ぎたようだ。そなたがあまりに可愛いので、つい苛めてみたくなった」
その刹那、フーッと鋭い咆哮を上げると共に、小虎が秀龍に飛びかかり、その端整な面を思いきり尖った爪でガリガリと引っかく。
「い、痛ッ」
「小虎、駄目!」
秀龍の悲鳴と春泉のたしなめる声がほぼ同時に響き渡った。
その少しく後。
無数のひっかき傷がついた両頬を手のひらで撫でながら、秀龍は苦り切った笑みを浮かべていた。
「申し訳(ハンゴン)ござい(ハオ)ません(ニダ)、旦那(ナー)さま(リ)」
消え入るような声で言う春泉に、秀龍は笑顔のまま首を振った。
「いや、私こそ、そなたを怖い目に遭わせてしまった。本当に申し訳ない。詫びて済むものではないかもしれないが、許して欲しい」
秀龍が春泉の両手を掴み、そっと押し頂くように持ち上げた。先刻の出来事を思い出し、ピクリと身を竦ませた彼女を安心させるように微笑みかけ、秀龍は骨太の指でそっと春泉の手首を撫でた。
少女の白い膚には無惨に鬱血した痕が刻まれ、丁度、手首に紅い腕輪をしたように見える。それは他ならぬ秀龍自身が春泉の両手を紐で縛り、自由を奪った証であった。
「本当に済まない。私は常日頃から、己れの醜い欲望で女人を慰みものにする奴らを男として最低だと―人間の屑だと思ってきた。自分だけは、けしてそんな畜生にも劣る下劣なふるまいはせぬと信じていた。しかし、そなたと出逢ってまだ丸一日も経ってはおらぬというのに、この体たらくだ。春泉、こんなことを言うと、また、そなたを怯えさせてしまいそうだが、私はどうやら、そなたに本当に惚れてしまったようだ」
「判りました。それで小虎を傍に置かせて頂けるのなら、お約束します」
唇を戦慄かせ、春泉は大粒の涙をポロポロ零しながら言った。
と、秀龍の邪気のない笑い声がその場の緊張を和ませた。
「冗談だ、冗談だよ。春泉、少し悪戯が過ぎたようだ。そなたがあまりに可愛いので、つい苛めてみたくなった」
その刹那、フーッと鋭い咆哮を上げると共に、小虎が秀龍に飛びかかり、その端整な面を思いきり尖った爪でガリガリと引っかく。
「い、痛ッ」
「小虎、駄目!」
秀龍の悲鳴と春泉のたしなめる声がほぼ同時に響き渡った。
その少しく後。
無数のひっかき傷がついた両頬を手のひらで撫でながら、秀龍は苦り切った笑みを浮かべていた。
「申し訳(ハンゴン)ござい(ハオ)ません(ニダ)、旦那(ナー)さま(リ)」
消え入るような声で言う春泉に、秀龍は笑顔のまま首を振った。
「いや、私こそ、そなたを怖い目に遭わせてしまった。本当に申し訳ない。詫びて済むものではないかもしれないが、許して欲しい」
秀龍が春泉の両手を掴み、そっと押し頂くように持ち上げた。先刻の出来事を思い出し、ピクリと身を竦ませた彼女を安心させるように微笑みかけ、秀龍は骨太の指でそっと春泉の手首を撫でた。
少女の白い膚には無惨に鬱血した痕が刻まれ、丁度、手首に紅い腕輪をしたように見える。それは他ならぬ秀龍自身が春泉の両手を紐で縛り、自由を奪った証であった。
「本当に済まない。私は常日頃から、己れの醜い欲望で女人を慰みものにする奴らを男として最低だと―人間の屑だと思ってきた。自分だけは、けしてそんな畜生にも劣る下劣なふるまいはせぬと信じていた。しかし、そなたと出逢ってまだ丸一日も経ってはおらぬというのに、この体たらくだ。春泉、こんなことを言うと、また、そなたを怯えさせてしまいそうだが、私はどうやら、そなたに本当に惚れてしまったようだ」