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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第7章 天上の楽園

 しかし、秀龍が春泉を待ちたいというのもまた、嘘ではない。無理に力ずくで身体を開かせるのは容易いが、秀龍はできれば春泉の方からその気になって身を委ねてくれればと願っているのだ。
 春泉に出逢って、彼は自分の中にも、これまで無縁だと思い込んでいた〝男〟の本能が嫌になるくらい隠れているのを改めて思い知らされてしまった。
 それでも、生来の彼は、けして好色でも強姦魔でもなければ、偏執狂の色狂いでもなく、ごく一般的な良識を持つ一人の男だ。春泉が自分から秀龍に身も心も開いてくれる日を待ちたいというのも本音だった。
 こんなことは初めての経験だ。女人に対しては淡泊な方だと信じてきたのに、それが単なる自分一人の思い込みにすぎなかったとは。春泉は秀龍にとって甘い蜜のようなもので、蝶が美しい花の蜜に惹かれるように、秀龍は春泉に幻惑されてしまっている。
 今朝も久々の休暇で溜まった本を読んで過ごそうと思っていたのに、眼は文字を追っているだけで、内容がさっぱり入ってこない。代わりに、頭の中で考えているのは美しくも愛らしい妻のことばかり。
 秀龍がまたしても大きな息を吐いた時、トンと小さな脚音がして、秀龍はハッと身構えた。研ぎ澄まされた剣士の勘が反射的に彼に危急を知らせ、彼は部屋の片隅まで鮮やかに跳躍すると、すかさず刀掛けから小刀を取った。
 カチャリと剣の鞘を払う。ふいに脚許でミャーと呑気な鳴き声が聞こえ、身体中に漲った緊張が瞬時に拡散していった。
「おい、お前。いきなり現れるなよ、びっくりするじゃないか」
 秀龍の脚許に小虎がきちんと座っている。小虎のいつも首に結んで貰っている紅いリボンが少し解(ほど)けかかっている。
「じっとしてろよ」
 秀龍は声をかけてから、おっかなびっくり、小虎の首のリボンをきちんと結び直してやった。〝義禁府きっての手練れ〟と畏怖されている武人の彼がたかだか猫一匹に怯えているとは、誰も想像できない光景だ。秀龍にしてみれば、何しろ、祝言の夜、小虎の大切なご主人さま春泉に手を出そうとして、顔中を思いきり引っかかれたという前科がある。

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