淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第8章 夫の秘密
叶うなら、耳を塞ぎたかった。
チェギョンは幾度も頷いた。
「男性が妓房(キバン)に通うのは、特に珍しいことではありません。ですが、秀龍さまが通っているという妓房は、色町の中でも特に品の良くないお見世ばかりが立ち並んでいて、まともな両班の殿方ならまず絶対に脚を踏み入れない―そのような場所柄だそうです」
「そんなこと」
春泉は唇を震わせ、絶句した。
「そんなこと、あるはずがありません」
チェギョンが春泉を痛ましげに見つめた。
「私も信じたくはないのです、春泉。さりながら、これは李(イ)執事(ソバン)が直接、町で見聞きしたことなので、間違いはありません」
母の話によれば、この由々しき噂を最初に耳にしたのは、柳家に仕える李執事であったという。この三十代後半の男は実直な働き者で、チェギョンも誰より信頼している。多くの使用人に暇を出しても、この男だけは今も変わらず通いで奉公していた。
―皇家の嫡子が〝翠華楼〟に通い詰めで、妓生(キーセン)に入れあげているというぞ。
町の場末の酒場でふと耳にした客同士の会話に、柳家のお嬢さまの嫁ぎ先が出てきたものだから、執事は耳をそばだてていた。
皇家の若さまが入れ込んでいるのは香月(ヒヤンウォル)という妓生で、年の頃は十八、九。その名のとおり、香など焚きしめずとも、身体から芳しい香りが匂い立ち、一国の王ですら虜になるだろうというほどの美貌の持ち主らしい。清廉な美貌というのではなく、まさしく〝傾城〟の呼び名がふさわしい、退廃的な男心を蕩かし惑わすような、あだな美貌だとか。
そこで情報を仕入れた執事は早速、屋敷に戻って事の次第をチェギョンに報告した。チェギョンは即刻、執事に命じて、ひそかに更に詳しく調べさせた。
その結果、執事が聞いた噂は真実そのものであり、秀龍は勤務を終えて王宮から自邸に帰る途中、しばしば、この翠月楼に立ち寄っていることが判明した。いつも指名する敵娼(あいかた)は香月であり、一度登楼すれば、最低でも二時間は出てこない。その時間に、密室で遊女と客の男が何をしているか―、そのようなことは春泉にだとて察しはつくというものだ。
チェギョンは幾度も頷いた。
「男性が妓房(キバン)に通うのは、特に珍しいことではありません。ですが、秀龍さまが通っているという妓房は、色町の中でも特に品の良くないお見世ばかりが立ち並んでいて、まともな両班の殿方ならまず絶対に脚を踏み入れない―そのような場所柄だそうです」
「そんなこと」
春泉は唇を震わせ、絶句した。
「そんなこと、あるはずがありません」
チェギョンが春泉を痛ましげに見つめた。
「私も信じたくはないのです、春泉。さりながら、これは李(イ)執事(ソバン)が直接、町で見聞きしたことなので、間違いはありません」
母の話によれば、この由々しき噂を最初に耳にしたのは、柳家に仕える李執事であったという。この三十代後半の男は実直な働き者で、チェギョンも誰より信頼している。多くの使用人に暇を出しても、この男だけは今も変わらず通いで奉公していた。
―皇家の嫡子が〝翠華楼〟に通い詰めで、妓生(キーセン)に入れあげているというぞ。
町の場末の酒場でふと耳にした客同士の会話に、柳家のお嬢さまの嫁ぎ先が出てきたものだから、執事は耳をそばだてていた。
皇家の若さまが入れ込んでいるのは香月(ヒヤンウォル)という妓生で、年の頃は十八、九。その名のとおり、香など焚きしめずとも、身体から芳しい香りが匂い立ち、一国の王ですら虜になるだろうというほどの美貌の持ち主らしい。清廉な美貌というのではなく、まさしく〝傾城〟の呼び名がふさわしい、退廃的な男心を蕩かし惑わすような、あだな美貌だとか。
そこで情報を仕入れた執事は早速、屋敷に戻って事の次第をチェギョンに報告した。チェギョンは即刻、執事に命じて、ひそかに更に詳しく調べさせた。
その結果、執事が聞いた噂は真実そのものであり、秀龍は勤務を終えて王宮から自邸に帰る途中、しばしば、この翠月楼に立ち寄っていることが判明した。いつも指名する敵娼(あいかた)は香月であり、一度登楼すれば、最低でも二時間は出てこない。その時間に、密室で遊女と客の男が何をしているか―、そのようなことは春泉にだとて察しはつくというものだ。