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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第8章 夫の秘密

「全っく、お前って奴は、つくづく、救いようのない奴だな」
 秀龍が嘆息するのに、香月は茶目っ気たっぷりに片眼を瞑って見せる。
「そう言うなよ。あの両班が首飾りをくれたときは、本当に寝込んでたんだからさ。いつもの仮病じゃないさ。ほら、兄貴だって、俺が寝込んでるのを見て、大慌てしたじゃないか」
 四日前、秀龍はいつものように翠月楼に上がった。むろん、指名はいつもの馴染みの敵娼傾城香月だ。だが、香月はその日、折悪しく具合が悪く、布団にくるまって震えていた。
 熱がたいそう高かったのだ。
「大慌てなどしていない。ただ、お前は明賢(ミヨンヒヨン)に似て、身体が弱いから―。たかが風邪と侮って、取り返しの付かないことになっては一大事だと思っただけだ」
「それだけにしては、随分と心配そうに薬を飲ませたり粥を食べさせたりしてくれたね」
「煩いッ。とにかく、悪事を次々と企んで、罪のない客を弄ぶんじゃない。私が言いたいのは、そういうことだ」
 言葉は叱る口調だが、秀龍の香月に注ぐ視線は温かく、兄が出来の悪い弟を見守るようだ。
「何だよ、何だよ。幾ら、新婚の奥方がヤラセてくらないからって、俺に八ツ当たりするなよ」
「なっ。香月、下品な言葉遣いは止せ」
 秀龍が額に青筋を浮かべるのを、香月はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべて眺めている。
「だって、図星だろ。兄貴、女なんて、欲しけりゃ、その場で即、押し倒してヤッちまえば良いんだよ。案外、向こうもカマトトぶってるだけかもしれないぜ。本当は意外に兄貴が押し倒すのを待ってるのかも」
「止せと言ってるだろう。春泉のことをそんな風に言うな。あの女は、そんな安っぽい女じゃない」
 秀龍がムキになればなるほど、香月の舌はなめらかになる。
「実は、もう何回か、押し倒しただろ?」
「お、お前っ。どうして、判ったんだ!?」
 我ながら動揺のあまり、声が上ずってしまうのが情けない秀龍であった。
「何となく、ね。兄貴を見てれば、丸分かりだよ。何せ、付き合いが長いからね。世の中の連中は兄貴を天下の俊英だとか何だとかもてはやしてるけど、兄貴は実は物凄い単純だからさ。俺には、兄貴の考えてることが顔に書いてあるように見えるぜ」

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