淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第9章 哀しい誤解
秀龍さまは、まだ私を許しては下さらないのだ。
そのことが無性に哀しくて、春泉は今朝はずっと自室に閉じこもって塞ぎ込んでいた。
時折、オクタンや小虎、素花が心配そうに様子を覗きにきたけれど、春泉は食事も満足に喉を通らないほど落ち込んでいた。
黄昏刻が近づいて、今日もそろそろ終わろうかという頃になって、春泉は五月になったばかりの日、見た夢をふと思い出したのだ。
夢の中で一糸纏わぬあられもない姿の男と女が烈しく絡み合う、淫らな夢だった。まだ、男女の理をはきとは知らない春泉には、ただただ、忌まわしい厭らしい夢にすぎず、行為そのものの意味などは理解できない。
しかし、あのような淫乱な夢を見たなぞ、たとえ乳母のオクタンにすら、恥ずかしくて言えたものではない。
日にちを経るにつれて、あの忌まわしい夢のことは忘れていったけれど、その日の夕刻、秀龍から贈られた白牡丹を眺めている中に、ふっとあの淫らな夢が鮮やかに甦ったのだ。言い訳のように聞こえるかもしれないけれど、何のきっかけもなしに、夢のことを思い出したわけではない。
白い花があの夢を記憶の断片を運んできたのだ。
夢の中で、逞しい男は秀龍、豊満で淫らな肢体を持つ女は香月だった。
秀龍は、香月にも、あの花を贈ったのだろうか?
それとも、香月の好きな花をわざわざ探して?
それは花を贈られた直後も考えたことだった。何故、今頃になって、そのことを思い出したのかは判らない。
ただ、白い花を見ていたら、居ても立ってもいられなくなってしまった。
秀龍さまは、今、どこにいる?
そう思った時、ふいに、堪らなくなった。
もしかしたら、秀龍さまは、また、香月の許にいるのではないだろうか?
春泉は懸命になって思い出そうとした。
香月が抱えられている見世の名は、そう、確か〝翠月楼〟といった。その見世の名前を思い出した刹那、春泉は部屋を飛び出していた。
両班の屋敷とはいえ、門番がいるわけではない。下男たちが常時、庭内や門の内外、周辺を見回るだけで、警護が厳重すぎることはなかった。だから、春泉が庭を抜けて、門を出るのは容易かった。
そのことが無性に哀しくて、春泉は今朝はずっと自室に閉じこもって塞ぎ込んでいた。
時折、オクタンや小虎、素花が心配そうに様子を覗きにきたけれど、春泉は食事も満足に喉を通らないほど落ち込んでいた。
黄昏刻が近づいて、今日もそろそろ終わろうかという頃になって、春泉は五月になったばかりの日、見た夢をふと思い出したのだ。
夢の中で一糸纏わぬあられもない姿の男と女が烈しく絡み合う、淫らな夢だった。まだ、男女の理をはきとは知らない春泉には、ただただ、忌まわしい厭らしい夢にすぎず、行為そのものの意味などは理解できない。
しかし、あのような淫乱な夢を見たなぞ、たとえ乳母のオクタンにすら、恥ずかしくて言えたものではない。
日にちを経るにつれて、あの忌まわしい夢のことは忘れていったけれど、その日の夕刻、秀龍から贈られた白牡丹を眺めている中に、ふっとあの淫らな夢が鮮やかに甦ったのだ。言い訳のように聞こえるかもしれないけれど、何のきっかけもなしに、夢のことを思い出したわけではない。
白い花があの夢を記憶の断片を運んできたのだ。
夢の中で、逞しい男は秀龍、豊満で淫らな肢体を持つ女は香月だった。
秀龍は、香月にも、あの花を贈ったのだろうか?
それとも、香月の好きな花をわざわざ探して?
それは花を贈られた直後も考えたことだった。何故、今頃になって、そのことを思い出したのかは判らない。
ただ、白い花を見ていたら、居ても立ってもいられなくなってしまった。
秀龍さまは、今、どこにいる?
そう思った時、ふいに、堪らなくなった。
もしかしたら、秀龍さまは、また、香月の許にいるのではないだろうか?
春泉は懸命になって思い出そうとした。
香月が抱えられている見世の名は、そう、確か〝翠月楼〟といった。その見世の名前を思い出した刹那、春泉は部屋を飛び出していた。
両班の屋敷とはいえ、門番がいるわけではない。下男たちが常時、庭内や門の内外、周辺を見回るだけで、警護が厳重すぎることはなかった。だから、春泉が庭を抜けて、門を出るのは容易かった。