淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第9章 哀しい誤解
秀龍と同じで、普段は滅多に取り乱さない母が、愕きと興奮で形の良い唇を震わせている。
声も心なしか上ずっていた。
「だって、お母さま。秀龍さまは、私よりも翠月楼の香月という妓生の方を大切だと思っていらっしゃるのだもの。それも、毎夜のように香月と逢っていながら、平気な顔で何もなかったように私に手を伸ばしてくるの。そんなのって、最低。私が何も知らないと思って、秀龍さまは、秀龍さまは―」
感情が嵐となって荒れ狂い、言葉にならない。
チェギョンは小さな吐息をつき、娘と向かい合うようにして座った。
「やはり、あのことが原因だったのですね。私があれほど、秀龍さまと香月のことは当分、見て見ないふりをしなさいと言っておいたのに」
春泉は叫んだ。
「そんなこと、私にはできない。自分の良人が、心から慕う男(ひと)が他の女の許に通っているのに、それを平然と見ているだけだなんて。お母さまなら、できるの?」
春泉の激昂した言葉に、チェギョンは微笑さえ浮かべていた。
「―できるわ。いいえ、そうしなければならないのなら、私は気づかないふりをするでしょうね。春泉、あなたももう幼い子どもではないのだから、亡くなったお父さまが外で何をなさっていたかはよく知っているわよね。亡くなった人の悪口は言いたくないけれど、私は若い頃から、あの人の女癖の悪さには泣かされました。そう、丁度、今のあなたと全く同じです。お父さまに妾がいると知ったのは、祝言を挙げた翌日でした。しかも、その妾は私たち夫婦と同じ屋敷内に住んでいたのですよ。当時はまだ健在だった、あなたのお祖母さまも認めた公認の側妾だったのよ」
「―そんな、まさか」
初めて知らされる衝撃の事実に、春泉は眼の前が真っ白になった。
父の女好きは知っていたものの、まさか、そこまでとは考えていなかったのだ。
チェギョンは薄く笑んだまま、遠いまなざしで語った。
声も心なしか上ずっていた。
「だって、お母さま。秀龍さまは、私よりも翠月楼の香月という妓生の方を大切だと思っていらっしゃるのだもの。それも、毎夜のように香月と逢っていながら、平気な顔で何もなかったように私に手を伸ばしてくるの。そんなのって、最低。私が何も知らないと思って、秀龍さまは、秀龍さまは―」
感情が嵐となって荒れ狂い、言葉にならない。
チェギョンは小さな吐息をつき、娘と向かい合うようにして座った。
「やはり、あのことが原因だったのですね。私があれほど、秀龍さまと香月のことは当分、見て見ないふりをしなさいと言っておいたのに」
春泉は叫んだ。
「そんなこと、私にはできない。自分の良人が、心から慕う男(ひと)が他の女の許に通っているのに、それを平然と見ているだけだなんて。お母さまなら、できるの?」
春泉の激昂した言葉に、チェギョンは微笑さえ浮かべていた。
「―できるわ。いいえ、そうしなければならないのなら、私は気づかないふりをするでしょうね。春泉、あなたももう幼い子どもではないのだから、亡くなったお父さまが外で何をなさっていたかはよく知っているわよね。亡くなった人の悪口は言いたくないけれど、私は若い頃から、あの人の女癖の悪さには泣かされました。そう、丁度、今のあなたと全く同じです。お父さまに妾がいると知ったのは、祝言を挙げた翌日でした。しかも、その妾は私たち夫婦と同じ屋敷内に住んでいたのですよ。当時はまだ健在だった、あなたのお祖母さまも認めた公認の側妾だったのよ」
「―そんな、まさか」
初めて知らされる衝撃の事実に、春泉は眼の前が真っ白になった。
父の女好きは知っていたものの、まさか、そこまでとは考えていなかったのだ。
チェギョンは薄く笑んだまま、遠いまなざしで語った。