淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第9章 哀しい誤解
春泉が涙声で続けた。
「身体に触られたりするのは厭なのです。私が幾ら厭だから止めて下さいとお願いしても、秀龍さまは止めて下さらないの。そんなときは、とても怖いお顔をなさって、氷のように冷たい眼で私をじっと見ていらっしゃっるから、身体が震えてしまって、私、どうしたら良いか判らないのです」
チェギョンの声が優しくなった。
「あなたたちは夫婦なのだから、それは当たり前のことでしょう? 良人が妻に触れるのは、別に不思議なことではないわ」
「で、でもっ。私は厭なのです。誰にも身体を触られたくなんかありません」
とうとう春泉が両手で顔を覆って泣き出した。
チェギョンは春泉に近寄り、そっとその身体に手を回して抱きしめた。
「泣かないで良いのよ、春泉。あなたは秀龍さまが好きなのに、そのお慕いしている方にも触れられるのは厭なのね」
春泉は泣きながら頷いた。
「あなたが皇家に帰りたくないという理由には、そのことも含まれているのですか?」
「―はい」
春泉は消え入るような声で頷き、チェギョンに縋りついた。
「お母さま、私はもう、皇家には帰りたくありません。良い娘でいるから、どこにもやらないで下さい。ずっと、この家にいさせて」
涙混じりの声で訴え、母の膝に顔を伏せてすすり泣く娘を、チェギョンは途方に暮れて見つめた。
春泉の幸せを願って、今の家計ではかなりの無理をしてまで豪勢な嫁入り支度を整えて嫁がせたのに、皇家での日々は、そこまでこの娘にとっては辛いものだったのだろうか。
自分はあまりにもこの子を長く一人にしすぎた。どうして、もっと早くにこうして抱きしめてやらなかったのだろう。心を通じ合わせるには、ただこれだけで良かったのに。
チェギョンは春泉が泣き止むまで、ずっとその体勢のまま、娘の髪を撫で続けた。
十八年間の空白を取り戻すような。
その間、注ごうとしなかった愛情のすべてを今の一瞬に込めるような、優しい手つきだった。
そして、春泉にとっては愕きの連続であった。母に抱きしめられたのも初めてなら、頭を優しく撫でられたのも、初めての経験だったからだ。
「身体に触られたりするのは厭なのです。私が幾ら厭だから止めて下さいとお願いしても、秀龍さまは止めて下さらないの。そんなときは、とても怖いお顔をなさって、氷のように冷たい眼で私をじっと見ていらっしゃっるから、身体が震えてしまって、私、どうしたら良いか判らないのです」
チェギョンの声が優しくなった。
「あなたたちは夫婦なのだから、それは当たり前のことでしょう? 良人が妻に触れるのは、別に不思議なことではないわ」
「で、でもっ。私は厭なのです。誰にも身体を触られたくなんかありません」
とうとう春泉が両手で顔を覆って泣き出した。
チェギョンは春泉に近寄り、そっとその身体に手を回して抱きしめた。
「泣かないで良いのよ、春泉。あなたは秀龍さまが好きなのに、そのお慕いしている方にも触れられるのは厭なのね」
春泉は泣きながら頷いた。
「あなたが皇家に帰りたくないという理由には、そのことも含まれているのですか?」
「―はい」
春泉は消え入るような声で頷き、チェギョンに縋りついた。
「お母さま、私はもう、皇家には帰りたくありません。良い娘でいるから、どこにもやらないで下さい。ずっと、この家にいさせて」
涙混じりの声で訴え、母の膝に顔を伏せてすすり泣く娘を、チェギョンは途方に暮れて見つめた。
春泉の幸せを願って、今の家計ではかなりの無理をしてまで豪勢な嫁入り支度を整えて嫁がせたのに、皇家での日々は、そこまでこの娘にとっては辛いものだったのだろうか。
自分はあまりにもこの子を長く一人にしすぎた。どうして、もっと早くにこうして抱きしめてやらなかったのだろう。心を通じ合わせるには、ただこれだけで良かったのに。
チェギョンは春泉が泣き止むまで、ずっとその体勢のまま、娘の髪を撫で続けた。
十八年間の空白を取り戻すような。
その間、注ごうとしなかった愛情のすべてを今の一瞬に込めるような、優しい手つきだった。
そして、春泉にとっては愕きの連続であった。母に抱きしめられたのも初めてなら、頭を優しく撫でられたのも、初めての経験だったからだ。