淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第9章 哀しい誤解
「構わなくてよ。もう既に終わってしまった私たちのことよりも、今は、まだまだ先の長いあなたたちの方が大切だもの。もしかしたら、あなたのその応えを聞けば、秀龍さまと解り合えるきっかけを見つけられるかもしれないでしょう」
「私は幼い頃から、お父さまとお母さまをずっと見てきました。気がついたときには、お二人のように憎しみ合う夫婦だけは厭だ、あんな風にはなりたくないと思うようになっていたのです」
チェギョンがハッと息を呑んだ。
春泉もまた母を見た。
今の言葉は、母にとっては辛く思いがけないものだったに相違ない。殊に実の娘から告げられた場合は、女としても、母親としても烈しい衝撃を受けただろう。
やはり、言わなければ良かった。今になって母を傷つけるくらいなら、こんな話はずっと自分一人の胸の奥にしまっておけば良かったのだ。
涙を浮かべた春泉に、チェギョンは美しい微笑みを見せた。
「あなたが気にする必要はありませんよ、春泉。むしろ、あなたに謝らなければならないのは私の方だわ。ほんの子どもだったあなたに辛い想いばかりさせ、結婚したくないと思うまで追いつめたのは父であるお父さまと母である私の責任ですからね」
チェギョンはしみじみとした声音で言った。
「でもね。これだけは憶えて欲しいの。確かにお父さまと私の場合は不幸にして、最後まで解り合えなかったけれど、世の中には私たちのような夫婦だけではない。大半の夫婦は些細な喧嘩を繰り返しながらも、その度に仲直りして人生という日々を紡いでゆくの。全く別の家に生まれ育った赤の他人同士が結婚して、家族になるのですもの、時には意見の食い違いがあって当然よ。それを話し合い、少しずつ譲り合っていくことで、乗り越えてゆくのね。長く一緒に暮らしてゆけば、段々と情も湧いてくるし、お互いを理解できるようにもなってくる。最初から上手くゆく夫婦なんてひと組もありませんよ。皆、何もないところから始めて、少しずつ前に進んでゆくの」
そのチェギョンの話は、春泉には意外でもあり、眼から鱗が落ちる想いでもあった。
母がこんなことを考えていたなんて、これまで想像してみたこともなかった。
「私は幼い頃から、お父さまとお母さまをずっと見てきました。気がついたときには、お二人のように憎しみ合う夫婦だけは厭だ、あんな風にはなりたくないと思うようになっていたのです」
チェギョンがハッと息を呑んだ。
春泉もまた母を見た。
今の言葉は、母にとっては辛く思いがけないものだったに相違ない。殊に実の娘から告げられた場合は、女としても、母親としても烈しい衝撃を受けただろう。
やはり、言わなければ良かった。今になって母を傷つけるくらいなら、こんな話はずっと自分一人の胸の奥にしまっておけば良かったのだ。
涙を浮かべた春泉に、チェギョンは美しい微笑みを見せた。
「あなたが気にする必要はありませんよ、春泉。むしろ、あなたに謝らなければならないのは私の方だわ。ほんの子どもだったあなたに辛い想いばかりさせ、結婚したくないと思うまで追いつめたのは父であるお父さまと母である私の責任ですからね」
チェギョンはしみじみとした声音で言った。
「でもね。これだけは憶えて欲しいの。確かにお父さまと私の場合は不幸にして、最後まで解り合えなかったけれど、世の中には私たちのような夫婦だけではない。大半の夫婦は些細な喧嘩を繰り返しながらも、その度に仲直りして人生という日々を紡いでゆくの。全く別の家に生まれ育った赤の他人同士が結婚して、家族になるのですもの、時には意見の食い違いがあって当然よ。それを話し合い、少しずつ譲り合っていくことで、乗り越えてゆくのね。長く一緒に暮らしてゆけば、段々と情も湧いてくるし、お互いを理解できるようにもなってくる。最初から上手くゆく夫婦なんてひと組もありませんよ。皆、何もないところから始めて、少しずつ前に進んでゆくの」
そのチェギョンの話は、春泉には意外でもあり、眼から鱗が落ちる想いでもあった。
母がこんなことを考えていたなんて、これまで想像してみたこともなかった。