淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第10章 予期せぬ真実
秀龍は現実には〝檻に入れられた欲求不満の熊〟と言われたのだが、流石に彼も〝欲求不満〟とは自分では言えない。
それでなくとも、昂ぶりを抑えかね、春泉の身体を幾度も奪おうとして失敗した過去があるのだ。〝欲求不満〟などの余計な言葉を冠せれば、それこそ春泉に、ただの好色な身体目当ての男と思われてしまうかもしれないではないか! それだけは絶対に避けたい。
「でも、秀龍さま。香月という方は、とても面白い人のようですね。私、是非、一度、お逢いしてみたいです」
などと、春泉が愛らしい面を輝かせて言うものだから、もう、秀龍は気が気ではなくなった。
―兄貴の奥さんを俺に紹介してよ。
―奥さんも俺も案外、本気になったりして?
香月の科白が次々に脳裡に甦ってきて、秀龍は憮然とした。
「いいや、それは駄目だ」
「何故ですか? 誤解も解けたのですし、私も秀龍さまの大切な方に逢って、色々と愉しいお話を聞かせて頂きたいと思ったのですけど」
秀龍の話を聞くにつけ、春泉は傾城香月という一人の人間に興味を持つようになった。男女の別は関わりなく、凜とした意思を持つ一人の人間として生きる彼女(?)の生き方に強く惹かれるものがあった。
「何だ、その〝大切な方〟というのは。そのようなことを無闇に言わないでくれ。誰かが聞けば、それこそ何と誤解されるか知れたものではない」
「判りました。気をつけます。でも、秀龍さま、一度だけでも―」
よほど香月の数奇な人生に関心を引かれたのか、珍しく春泉が言い募る。他のことであれば、〝よしよし〟と眼尻を下げて頼みを聞き入れてやるところだが、これだけは絶対に駄目だ、許可できない。
「駄目だと言ったら、駄目だ! 両班の妻が色町の妓房に行くなぞ、もってのほか、言語道断に決まっている」
香月―いや、この場合は英真と言うべきか―に引き合わせれば、春泉が英真にひとめ惚れしてしまうかもしれない。いや、春泉は初対面の男にクラッとなるほどの馬鹿ではないが、英真の方が春泉を気に入る可能性はある。
あいつに本気になられたら、私の出る幕なんか、なくなってしまうからな。
それでなくとも、昂ぶりを抑えかね、春泉の身体を幾度も奪おうとして失敗した過去があるのだ。〝欲求不満〟などの余計な言葉を冠せれば、それこそ春泉に、ただの好色な身体目当ての男と思われてしまうかもしれないではないか! それだけは絶対に避けたい。
「でも、秀龍さま。香月という方は、とても面白い人のようですね。私、是非、一度、お逢いしてみたいです」
などと、春泉が愛らしい面を輝かせて言うものだから、もう、秀龍は気が気ではなくなった。
―兄貴の奥さんを俺に紹介してよ。
―奥さんも俺も案外、本気になったりして?
香月の科白が次々に脳裡に甦ってきて、秀龍は憮然とした。
「いいや、それは駄目だ」
「何故ですか? 誤解も解けたのですし、私も秀龍さまの大切な方に逢って、色々と愉しいお話を聞かせて頂きたいと思ったのですけど」
秀龍の話を聞くにつけ、春泉は傾城香月という一人の人間に興味を持つようになった。男女の別は関わりなく、凜とした意思を持つ一人の人間として生きる彼女(?)の生き方に強く惹かれるものがあった。
「何だ、その〝大切な方〟というのは。そのようなことを無闇に言わないでくれ。誰かが聞けば、それこそ何と誤解されるか知れたものではない」
「判りました。気をつけます。でも、秀龍さま、一度だけでも―」
よほど香月の数奇な人生に関心を引かれたのか、珍しく春泉が言い募る。他のことであれば、〝よしよし〟と眼尻を下げて頼みを聞き入れてやるところだが、これだけは絶対に駄目だ、許可できない。
「駄目だと言ったら、駄目だ! 両班の妻が色町の妓房に行くなぞ、もってのほか、言語道断に決まっている」
香月―いや、この場合は英真と言うべきか―に引き合わせれば、春泉が英真にひとめ惚れしてしまうかもしれない。いや、春泉は初対面の男にクラッとなるほどの馬鹿ではないが、英真の方が春泉を気に入る可能性はある。
あいつに本気になられたら、私の出る幕なんか、なくなってしまうからな。