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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第10章 予期せぬ真実

 続いて、ミャーという別の鳴き声に、秀龍はギョッとしたように眼を剝く。
 その視線が行儀良く並んだ二匹の白猫と灰色猫を捉えるや、切れ長の眼が丸くなった。
 春泉が秀龍の腕の中から出て、二匹の猫を優しく見つめる。
「そうそう、ご報告が遅れましたが、小虎がこの度、結婚しました。というより、勝手に奥さんを連れてきたんです。秀龍さまに頂いた白牡丹にちなんで、素花と名前をつけたのですが、屋敷で飼ってもよろしいでしょうか?」
 甘えるように訊ねられ、いやだと言えるはずがない。
 秀龍は溜め息をつくと、二匹の猫たちに話しかけた。
「お前らなあ、自分たちはそれで良いかもしれないが、私たちの蜜月を邪魔するのだけは止めてくれ。頼むから」
 その時。
 秀龍の頬を温かなものが軽くかすめて通り過ぎた。春泉がほんの一瞬、背伸びして秀龍の頬に唇を寄せたのだ。
「―」
 秀龍はボウと魂が抜けたような表情で頬を押さえた。
「もしかして、これは幸せな夢の中なのか?」
 相変わらず惚(ほう)けたままの秀龍が訊ねるのに、春泉は微笑みを浮かべる。
―相手が変わらないというのなら、自分が変わるしかない。
 昨日、実家に帰ってきたばかりの春泉に、母が言った言葉を今更ながらに思い出す。
 母の言った意味とは少しどころか、かなり違うのかもしれないが、今の春泉には現実味のある言葉だ。
 きっと、母自身も父の悪癖に悩まされていた時期、この言葉を座右の銘とし、辛い日々に心の折り合いをつけながら一日一日を何とか過ごしていったのだろう。
「いいえ、秀龍さま。これは紛れもない幸せな現実です」
 笑顔で応えた春泉の声に、ミャアーという小虎の鳴き声が呼応する。
 小虎の翡翠色の大きな瞳が和み、糸のように細くなった。春泉には小虎が〝そのとおりですよ〟と笑っているように見えた。

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