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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第11章 男装女子

 若者はかつて、人ならぬほどの美貌を持つ男を見たことがある。朝鮮人の癖に、黄金色の髪と蒼色の瞳を持つ異様人めいた風貌を持つその男も、この世のものとは思えない美しさを持っていた。
 あれほどに凄絶な美貌は滅多とお目にかかるものではないと思っていたのだが、彼は今日、またしても、その天与の美貌を目の当たりにすることになった。
 彼は相手に見惚(みと)れているあまり、逆に相手もまた自分を観察していることなど全く頭になかった。ただただ、魂を奪われたかのように、その華やかな美貌に釘付けになっている。
 大きな瞳はほんの少し下がり気味になっていて、それが香月の少々険のある美しさに、やらわかさを添える効果を醸し出している。
 刹那、香月と真正面から視線がぶつかり、若者はカアッと頬を上気させた。
「あら、お可愛らしい若(ソバ)さま(ニム)」
 ほんの社交辞令だろうその科白に、ますます頬が火照り、熟した林檎のように真っ赤に染まる。みっともないから、何とかして落ち着こうと思ってみても、焦れば焦るほど、身体は熱くなり、頬は赤くなった。
 もう、まともに見ていられない。彼は狼狽えて、視線を逸らし、うつむいた。
 眩しくて香月を見ていられないのは、何も彼女の輝くばかりの美貌のせいだけではない。多分、これだけの美女と密室に二人きりという極めて親密な状況も大いに関係している。
 と、こんな状況下でも妙に冷静に自己分析していた彼の耳に、香月の耳に心地良い声が響いてくる。
「これは恥ずかしがり屋の坊ちゃま(トルニム)でいらっしゃること」
 やや女性としては低めの声音は少し掠れているけれど、それがかえって色っぽい。
 この完璧すぎるほどの美貌を誇る妓生が実は男だなどと、一体、どこの誰が信じるだろう? 
 若者は悪い夢を見ているような心地で、惚(ほう)けたように眼前の傾城香月を見つめた。
―私より、よっぽど綺麗だわ。
 まさに、春(チユン)泉(セム)の第一印象はそれだった。
 そう、輝くばかりの笑みを浮かべて艶(あで)やかに微笑む香月がじつは男なら、世慣れぬ両班の若さまよろしく男装をしているのは、香月の恋人だと噂される皇秀龍の妻春泉なのだ!

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