淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第11章 男装女子
香月は華やかなチマチョゴリで、いきなり大胆にも胡座をかいた。春泉が眼を瞠っていると、香月が笑う。
「女の格好って、綺麗で好きだけど、動きづらいのは、ちょっと辛いよね」
彼はやおら立ち上がり、よいしょ、と、かけ声をかけてから、膨らんだチマの裾を絡げ、胡座を組み直した。
相手が男とは判っていても、眼のやり場に困ってしまう春泉である。
「私は駕籠の鳥じゃありませんから」
春泉が言うと、香月は声を上げて笑った。
「随分とはっきり物を言う人だ。見かけは美人で可愛いし、大人しそうなのに、結構気が強かったりする?」
「―ごめんなさい。子どもの頃から、母にもよくそう言われて、気をつけるように注意されているんですけど」
うなだれる春泉に、香月は微笑む。
「素直なところもなかなかよろしい。兄貴の奴、うまいことやりやがったな。こんな良い娘(こ)を見合いで引き当てるなんて」
香月の言葉は、どうも春泉には意味不明の部分が多いような気がする。
「それにしても、可愛いねえ。あの朴念仁で石頭の兄貴には勿体ないほどだよ。何なら、この俺が―」
そこで春泉の物問いたげな視線に気づき、香月はコホンとわざとらしい咳払いをした。
「もしかして、今日、ここに来たのを兄貴は知らないの?」
少しの逡巡の後、春泉は頷いた。
「ええ。秀龍さまは本当はいつも私を一人で町へ出すのは嫌だとおっしゃってるんですけど、こうして私がこっそりと町に出ていても、あからさまに駄目だとは言われません。羽目を外さないようにしているから、大目に見て下さっているのだと思います」
「なるほど、奥さんには滅法甘いんだ、あの好き者め」
「は?」
香月の悪態に首を傾げる春泉を眼を細めて見つめ。
香月は、極上の笑みを浮かべた。まさに、傾城の名にぴったりの、一国の王の心でさえ蕩かすような色香溢れる妖艶な微笑。女の春泉さえボウとのぼせてしまうのだから、男にすれば、もう腑抜けてしまったとしても仕方ないかもしれない。
「女の格好って、綺麗で好きだけど、動きづらいのは、ちょっと辛いよね」
彼はやおら立ち上がり、よいしょ、と、かけ声をかけてから、膨らんだチマの裾を絡げ、胡座を組み直した。
相手が男とは判っていても、眼のやり場に困ってしまう春泉である。
「私は駕籠の鳥じゃありませんから」
春泉が言うと、香月は声を上げて笑った。
「随分とはっきり物を言う人だ。見かけは美人で可愛いし、大人しそうなのに、結構気が強かったりする?」
「―ごめんなさい。子どもの頃から、母にもよくそう言われて、気をつけるように注意されているんですけど」
うなだれる春泉に、香月は微笑む。
「素直なところもなかなかよろしい。兄貴の奴、うまいことやりやがったな。こんな良い娘(こ)を見合いで引き当てるなんて」
香月の言葉は、どうも春泉には意味不明の部分が多いような気がする。
「それにしても、可愛いねえ。あの朴念仁で石頭の兄貴には勿体ないほどだよ。何なら、この俺が―」
そこで春泉の物問いたげな視線に気づき、香月はコホンとわざとらしい咳払いをした。
「もしかして、今日、ここに来たのを兄貴は知らないの?」
少しの逡巡の後、春泉は頷いた。
「ええ。秀龍さまは本当はいつも私を一人で町へ出すのは嫌だとおっしゃってるんですけど、こうして私がこっそりと町に出ていても、あからさまに駄目だとは言われません。羽目を外さないようにしているから、大目に見て下さっているのだと思います」
「なるほど、奥さんには滅法甘いんだ、あの好き者め」
「は?」
香月の悪態に首を傾げる春泉を眼を細めて見つめ。
香月は、極上の笑みを浮かべた。まさに、傾城の名にぴったりの、一国の王の心でさえ蕩かすような色香溢れる妖艶な微笑。女の春泉さえボウとのぼせてしまうのだから、男にすれば、もう腑抜けてしまったとしても仕方ないかもしれない。