淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第2章 ひとりぼっちの猫
その宴には礼曹判書自慢の一人息子も出席するらしく、母はこの機会に是非とも春泉をその跡取り息子に紹介したいらしい。たおやかな貴族の姫君を見慣れている両班の子息が自分のような垢抜けない娘に眼を向けるはずもないのに、母はどうやら真剣に礼曹判書の息子との縁組を考えているようだ。
名前など、とっくに忘れてしまったけれど、何でもその息子は今年の科挙に首席合格した英才だと専らの評判だ。今年、二十五だというが、その歳で浮いた噂の一つもなく人柄は清廉で、しかも頭脳明晰ときているので、国王(チユサン)殿下(チヨナー)のおん憶えもめでたく、周囲から将来を嘱望されているのだとも。
しかし、その一方で、あまりに女人を近づけない潔癖な暮らしぶりのその息子に対して、男色の趣味があるのだ―などという不名誉極まりない噂も囁かれているのも事実であった。
―礼曹判書のご子息は、実は屋敷の下男とただならぬ仲であるとか。
むろん、それらの下卑た噂にどこまでの信憑性があるのかは疑わしいものだし、母はそんな噂をとにかく春泉の耳には入れないようにしていた。
だが、そういった興味本位の噂に対して、屋敷内の女中たちはとても敏感だ。春泉は母が昔、恋人を棄てて父の妻におさまった昔話を聞いたのと同じく、彼女たちの賑やかなお喋りから、そのことを知った。
この晴れ着を見ているだけで、形容しがたい腹立たしさが込み上げてくる。
身勝手に若い愛人を囲い、淫らな情事に耽りまくった挙げ句、放っておいた娘を礼曹判書の息子の嫁にですって?
くだらない。何て、身勝手な人たちなの?
「本当にくだらないわ」
春泉は、つい吐き捨てるような口調になる。
「え? そんなにこの服がお気に召しませんか?」
玉彈が戸惑ったように春泉の顔色を窺う。
「ええ、全くもって気に入らない」
本当はこの服そのものが気に入らないのではない。父や母の身勝手さが、この服の似合わない自分の醜さが気に入らないのだ。
そして、自分の娘に似合う服すら選べず、最も似合わないだろう服を着せようとする両親の理解のなさや常識のなさが最も厭だ。
「何よ、これは。―仕立て直させて」
事もなげに言った春泉に、玉彈がわずかに眼をまたたかせた。
名前など、とっくに忘れてしまったけれど、何でもその息子は今年の科挙に首席合格した英才だと専らの評判だ。今年、二十五だというが、その歳で浮いた噂の一つもなく人柄は清廉で、しかも頭脳明晰ときているので、国王(チユサン)殿下(チヨナー)のおん憶えもめでたく、周囲から将来を嘱望されているのだとも。
しかし、その一方で、あまりに女人を近づけない潔癖な暮らしぶりのその息子に対して、男色の趣味があるのだ―などという不名誉極まりない噂も囁かれているのも事実であった。
―礼曹判書のご子息は、実は屋敷の下男とただならぬ仲であるとか。
むろん、それらの下卑た噂にどこまでの信憑性があるのかは疑わしいものだし、母はそんな噂をとにかく春泉の耳には入れないようにしていた。
だが、そういった興味本位の噂に対して、屋敷内の女中たちはとても敏感だ。春泉は母が昔、恋人を棄てて父の妻におさまった昔話を聞いたのと同じく、彼女たちの賑やかなお喋りから、そのことを知った。
この晴れ着を見ているだけで、形容しがたい腹立たしさが込み上げてくる。
身勝手に若い愛人を囲い、淫らな情事に耽りまくった挙げ句、放っておいた娘を礼曹判書の息子の嫁にですって?
くだらない。何て、身勝手な人たちなの?
「本当にくだらないわ」
春泉は、つい吐き捨てるような口調になる。
「え? そんなにこの服がお気に召しませんか?」
玉彈が戸惑ったように春泉の顔色を窺う。
「ええ、全くもって気に入らない」
本当はこの服そのものが気に入らないのではない。父や母の身勝手さが、この服の似合わない自分の醜さが気に入らないのだ。
そして、自分の娘に似合う服すら選べず、最も似合わないだろう服を着せようとする両親の理解のなさや常識のなさが最も厭だ。
「何よ、これは。―仕立て直させて」
事もなげに言った春泉に、玉彈がわずかに眼をまたたかせた。