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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第12章 騒動の種

 美京は上半身を起こすと、枕辺に置いてあった風呂敷包みを手にし、ゆっくりと解いた。先刻、その小さな風呂敷包みは林女官(ナイン)が後生大切そうに抱えていたもので、秀龍は林女官を抱きかかえた上に、その包みまで部屋に運んできたのである。
 包みから出てきたのは、十数個はあろう餅菓子であった。
「水菓房にいたというのは嘘ではありませんが、尚(マ)宮さま(ーマニム)のご用だったわけではないのです」
「では、そなたは何用で―」
 秀龍の視線に、美京はうつむいた。
「私はこの春、正式な女官になったばかりの、言わば新米です。本当なら、もう少し早くに正式な女官になれるはずなのですが、私は動作ものろいし、物憶えも良くないので、他人よりも数年は遅れました。それでも、やっと努力を認められて、尚宮さまに一人前の女官にして頂けたのです」
 だが―、現実は美京にとって厳しかった。彼女が女官に昇格した時、既に見習いで同期だった仲間は先輩になっており、この春、共に昇格した女官たちは彼女より年下の娘が多かったのだ。
「そなたは、今、幾つなのだ?」
 問えば、〝十九〟と応えられ、これには秀龍は瞠目した。今まで十六、七だと思い込んでいたのだが、現実には春泉とほぼ同じ歳だったのだ。
 十九ならば、確かに一人前になるには少々遅すぎるだろう。
 美京は涙ながらに語った。
 かつては友達だった女官たちは、事ある毎に美京に意地悪をした。秀龍も噂話には聞いているが、どうやら、後宮内での仲間苛めは聞いている以上に陰湿で根深いもののようだ。
 年頃の娘たちが大っぴらな恋愛も許されず、ただ狭い後宮内に閉じ込められているのだから、そのような憂さ晴らしも必要になるのだろうか。どうも、今一つ女心はよく判らない。同じ釜の飯を食べる身内を苛めて、何が愉しいのだろうと思うが、それは所詮、男の理屈なのだろうか。
「それで、今日、彼女たちが私に水菓房に行って、こっそりと食べ物を取ってこいと言うのです」
「さりながら、水菓房にも人はいる。そなたは、どうやってあそこから食物を持ち出したのだ?」

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