淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第12章 騒動の種
「見りゃあ判るだろ。薄汚い犬を追っ払ってるんだ。おいらの父ちゃんは少し先で蒸し饅頭を売ってるんだ。こんな汚い犬が店の近くをうろついてちゃ、商売にならないからな」
十歳くらいだろうか、鼻水を啜りながら、生意気に言う。
「別にこの犬が商売の邪魔をしたわけではないんでしょ。私から見たら、あんたたちが苛めてるようにしか見えないわよ」
「こいつ、追っ払っても、追っ払っても、向こうにいかないんだぜ」
大柄な少年の右脇のこれは一、二歳年下と思しき男の子がこちらも憎らしい様子で言う。
「おい、坊主。本当に強い男ってのはな、弱い者にはとことん優しくなるものなんだぞ。弱い者を苛めるのは、卑怯者のすることだ。それに、本当にお前の親父がこの犬を追っ払えと言ったのか? 何なら、お前が哀れな行き場のない野良犬を苛めてると親父さんに教えてやっても良いんだぞ」
英真が言ってやると、少年の顔が紅くなった。
「ヘン、おじさんとおばさんが何を言おうが、おいらは怖くはないからな」
棄て科白のように言い、〝おい、お前ら、行くぞ〟と子分どもを引き連れて、そそくさと逃げていった。
恐らく英真の言葉は図星だったのだろう。彼等はただ、遊び感覚で犬を苛めているだけだったのだ。
「な、何。私はまだ二十歳なのに、おばさんですって~」
春泉はまた別問題でぷりぷりと怒っていたが、ふと英真の視線の先を辿り、愕然とした。
いつ今し方、子どもたちに棒切れで追い回されていた犬が何かを一生懸命に舐めている。よくよく見ると、それは、既に息絶えた子犬の骸であった。
春泉は英真の方を縋るように見た。
「もう死んでいるのかしら」
英真が暗い顔で頷く。
「多分な。生まれてまだ日が浅そうだ。元々、弱かったか、それとも、飢え死にしちまったか」
母犬の方は見るからに痩せ衰えて、殆ど骨と皮ばかりになっていて、見るのも哀れなほどだ。これでは、乳が満足に出なかったとしても不思議はない。
春泉は、ひたすら物言わぬ子犬を舐め続ける母犬を見つめた。
十歳くらいだろうか、鼻水を啜りながら、生意気に言う。
「別にこの犬が商売の邪魔をしたわけではないんでしょ。私から見たら、あんたたちが苛めてるようにしか見えないわよ」
「こいつ、追っ払っても、追っ払っても、向こうにいかないんだぜ」
大柄な少年の右脇のこれは一、二歳年下と思しき男の子がこちらも憎らしい様子で言う。
「おい、坊主。本当に強い男ってのはな、弱い者にはとことん優しくなるものなんだぞ。弱い者を苛めるのは、卑怯者のすることだ。それに、本当にお前の親父がこの犬を追っ払えと言ったのか? 何なら、お前が哀れな行き場のない野良犬を苛めてると親父さんに教えてやっても良いんだぞ」
英真が言ってやると、少年の顔が紅くなった。
「ヘン、おじさんとおばさんが何を言おうが、おいらは怖くはないからな」
棄て科白のように言い、〝おい、お前ら、行くぞ〟と子分どもを引き連れて、そそくさと逃げていった。
恐らく英真の言葉は図星だったのだろう。彼等はただ、遊び感覚で犬を苛めているだけだったのだ。
「な、何。私はまだ二十歳なのに、おばさんですって~」
春泉はまた別問題でぷりぷりと怒っていたが、ふと英真の視線の先を辿り、愕然とした。
いつ今し方、子どもたちに棒切れで追い回されていた犬が何かを一生懸命に舐めている。よくよく見ると、それは、既に息絶えた子犬の骸であった。
春泉は英真の方を縋るように見た。
「もう死んでいるのかしら」
英真が暗い顔で頷く。
「多分な。生まれてまだ日が浅そうだ。元々、弱かったか、それとも、飢え死にしちまったか」
母犬の方は見るからに痩せ衰えて、殆ど骨と皮ばかりになっていて、見るのも哀れなほどだ。これでは、乳が満足に出なかったとしても不思議はない。
春泉は、ひたすら物言わぬ子犬を舐め続ける母犬を見つめた。