テキストサイズ

淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第12章 騒動の種

 だが、と、彼は思う。
 自分はそれで良くても、春泉までを自分の身勝手な色恋沙汰に巻き込むのは可哀想だ。
 第一、春泉は秀龍を心から慕っている。そんな彼女に何をどう言ったとしても、春泉は自分に付いてはこないだろう。
 幾ら春泉を欲しいと思っても、英真は春泉の気持ちを無視して、無理強いをしようとは思わない。
 結局、俺のこの想いは春泉に告げることもなく、押し殺してしまうしかないのだ。
 英真は妙に沈んだ心持ちで帰路を辿る。
 いつもなら、また翠月楼に戻って華やかな衣装に袖を通すことを考えただけで心が躍るのに、今日はいっかな弾まなかった。
 そろそろ桜が咲こうかという時季なのに、今日はやけに朝から冷える。三月には異常に春めいた日が続いたにも拘わらず、いざ花の季節になったら、冬に逆戻りしたかのような寒さが続いている。そのせいか、今年は例年より桜の開花も遅れていた。
 四月にしては冷たい風が身の傍を通りすぎてゆく。英真はかすかに身を震わせた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ