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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第13章 陽溜まりの猫

 春泉が断じると、女が嘲笑うように癇に障る笑い声を上げた。
「鈍いお方! 若い殿方が女官と一夜を共に過ごしたというのです。それがどういうことを指すか、お判りにならないなんて。それとも、現実を知るのが怖いから、わざと知らないふりをなさっているのかしら」
 流石に、これにはオクタンがいきり立った。
「無礼な。たかだか後宮に仕える下っ端の女官が先触れもなしに皇氏の若奥さまを訪ねてくるなぞ、本当なら許されないことですよ」
 と、女が不敵に言った。
「名ばかりの妻の座がどれほど大切だというのでしょう? 本当に重要なのは、皇都事さまがどなたを慕っておられるかということですよ」
「そうでしょうね。それで、あなたは、私の良人があなたを慕っているとでも仰せになりたいのですね」
「随分はっきりと物をおっしゃるのですね。まあ、それもそのはず、奥さまの亡くなられたお父君は悪徳商人としてその名を知られる柳千福さまでいらっしゃるとか。お気の毒に、お父上を殺害した科人はいまだに捕まらず、巷では、あまりに多くの人を泣かせたために天罰が下されたのだと噂されているそうですね」
 春泉はその言葉に何か抗弁しようとしたが、結局、唇を戦慄かせただけで何も言えなかった。
 女の言うことは、すべて真実だったからだ。
 確かに、春泉の父柳千福が死んだ時、〝天罰が下ったのだ〟と言う人は多かった。可哀想な父。確かに父は多くの人を泣かせ、自らの利を得るためには人殺しさえしかねないような非道な男ではあったが、それでも、春泉には優しい父親であったのだ。
「良い加減になさいませ! いきなり訪ねてきて、若奥さまに逢わせろというだけでも礼儀知らずなのに、その上、無礼な言葉の数々を吐き散らすとは」
 茫然としていた春泉の耳に、パシリと乾いた音が聞こえた。
 オクタンが女の頬を打ったのだと気づいた時、女は既に棄て科白を残して去っていった後だった。
「あなたの方こそ、使用人にどういう躾をしているのかしら。わざわざ訪ねてきた客人に女中が手を上げるなんて、どういう野蛮な躾をしていることやら。秀龍さまは絶対にあなたには渡さない。一ヵ月前の夜、王宮で何があったかを直接、皇都事さまに訊いてみると良いわ」

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