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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第14章 月下の真実

「そなたが私に詳しい事情を話して欲しいと頼んできた時、確かに私ははっきりとしたことを話さなかった。だが、その背景には、そういった経緯があったのだよ。そなたが事のあれこれを外に洩らすはずがないのは重々判っていても、誰が聞き耳を立てているか判らないのが世の中というものだ。たとえ百分の一の可能性でも、林女官の身に危険が及ぶような発言はでき得る限り慎むべきだと判断したんだ。だが、そなたが林女官のことで悩み、屋敷まで出たとあっては、もう真実を話した方が良いと思った。私にとって、いちばん大切なのは、他でもないそなただから」
 最後の科白に、春泉はハッとした。
 林女官の身の安全を守ることも大事には違いないが、何より、春泉の心を傷つけたくはない。
 秀龍の言わんとしている意図に思い至ったのだ。
「申し訳ございませんでした。旦那さま、私が浅はかでした。旦那さまの苦衷を考えもせず、疑ったりしたのは私の落ち度です」
 秀龍が笑った。
「もう済んだことだ。そなたが納得してくれさえすれば、私はそれで十分だよ。林女官のことは心配しなくて良い。彼女の仕える馬尚宮は話の判る方だ。私から馬尚宮さまに申し上げて、それとなく林女官に話して貰おう。林女官にも養わねばならない家族がいる。このような不祥事が露見して、後宮を追放にでもなったら、困るだろうから、少し釘を刺しておけば、二度とこのような愚かなふるまいには及ばないだろう」
 秀龍は昨夜とは人が変わったように穏やかだ。
 春泉は、あまりの恥ずかしさに頬が熱くなる想いだった。
 よくよく冷静になって考えてみれば、秀龍が自分を裏切るはずがないのに。
―どうして、私を信じようとしてくれない?
 何故、私を信じられぬのだ。
 あの時、振り絞るように叫んだ秀龍の切なげな表情が甦り、春泉は涙ぐんだ。
 秀龍には真実を話せない、ちゃんとした理由があった。しかも、それは、いかにも彼らしい優しさから発したものだ。
「香月のときの一件といい、今度のことといい、本当に私はどうしようもない馬鹿ですね。旦那さまが信じて欲しいとおっしゃってるのに、信じようともしないで、責めてばかりで」
 秀龍が微笑んだ。

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