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淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④

第15章 八年後

 今回、香月が二人の少年を雇い入れたのも、彼らが流行病(はやりやまい)で相ついでふた親を失い、路頭に迷っていたことから発したという。
 むろん、彼らにその気がなければ、何も男の子を少女と偽ってまで見世に連れてきはしなかっただろう。輿で町中を通りかかった時、道端に蹲っていた二人を見つけ声をかけてみたら、二人共に〝見世で働きたい〟と言ったのだとか。
―飢え死にするよりも、どんな格好をしていても、生きていたい。
 愕いたことに、少年たちは口々にそう言った。むしろ、女の格好をして、お金がたくさん入ってくるのなら、それも悪くはない、とも。
 このことが後に翠月楼を女のなりをした男の妓生ばかりの専門店に変えるきっかけになるとは、流石に春泉どころか、当の香月さえ考えてもいなかったろう。
 その話を秀龍から聞かされた時、春泉は軽い衝撃を受けた。十歳と九歳といえば、娘の恵里と変わらない年頃だ。にも拘わらず、生きてゆくためには性を偽ることまでしなければならないとは。
 こんな時、春泉は、世の中のどこかが狂っていると思う。
 温厚な気性で知られる現国王は、病がちではあるけれど、民の暮らしやすい世の中を理想としていて、自ら質素な生活を行っていると聞く。
 だが、現実に世の中は何も変わりはしない。幾ら王一人が理想を掲げ声高に叫ぼうとも、その下―実際に国政を担う大臣たちが知らぬ顔をしている限り、民の暮らしが良くなるはずがない。
 この国では両班と呼ばれる特権階級がその威光を笠に着て威張り散らし、貧しい民から搾取することばかり考えている。この一方的な流れ、支配の仕組みを変えない限り、民に真の意味での安寧は訪れないだろう。
 春泉自身は常民(サンミン)階級出身で、父は柳(ユ)千福(チヨンボク)―かつては漢陽一の豪商と呼ばれた男であった。確かに父は凄腕の商人ではあったが、その裏で密貿易を初め、到底、口には出せないようなあくどい取引を重ねていた。
 その暮らしぶりも贅の限りを尽くしたもので、何の力もない中流両班よりは、よほど千福一家の方が豪勢な屋敷に住んでいたに違いない。
 春泉もまた、少女時代はその贅沢に慣れ切った鼻持ちならない娘であった。

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