淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第15章 八年後
新婚時代、秀龍を良人として受け入れられないと拒む春泉に対して、秀龍は春泉を自分のものにしようと暴走しかけたことがあった。その度に小虎は果敢に身を挺して女主人を守ろうとし、どうも秀龍に敵意(?)を抱いているような節があったのだ。
しかし、そんな確執も遠い昔のこと、秀龍にとっても小虎はかけがえのない〝家族〟の一員となっている。
「ええ、長春が亡くなってからというもの、すっかり元気をなくしてしまって。ここのところ、あんまり元気がないものですから、特別に奮発して小虎の大好物の汁(クツ)飯(パ)をこしらえてみたのですけれど、それすら半分も食べませんでした」
春泉も愁いに満ちた口調で相槌を打つ。
「小虎、お前の元気がない姿なんて、らしくないぞ? 昔のように私の顔を引っかくくらい威勢の良かったお前に戻ってくれよ」
恋しさのあまり、春泉を押し倒そうとした秀龍の頬を盛大に引っかいて秀龍に悲鳴を上げさせた十年前の小虎はもういない。
月日のなせる業とはいえ、そのことは春泉に言い知れぬ哀しみを与えた。
外に愛人を囲い、ろくに家に寄りつきもしない父と、父に対抗するように若い男たちとの情事に耽っていた母。乳母の他に心をひらく相手のいなかった春泉にとって、小虎はかけがえのない友であり、家族であった。
父を失った後も、秀龍の妻となってからも、小虎はいつも春泉の傍にいて、見守り続けてくれたのだ。小虎のいない日々なんて、考えられないし、考えたくもない。
それでなくとも、乳母玉(オク)丹(タン)が去年の冬、去っていったという経緯がある。
しかし、そんな確執も遠い昔のこと、秀龍にとっても小虎はかけがえのない〝家族〟の一員となっている。
「ええ、長春が亡くなってからというもの、すっかり元気をなくしてしまって。ここのところ、あんまり元気がないものですから、特別に奮発して小虎の大好物の汁(クツ)飯(パ)をこしらえてみたのですけれど、それすら半分も食べませんでした」
春泉も愁いに満ちた口調で相槌を打つ。
「小虎、お前の元気がない姿なんて、らしくないぞ? 昔のように私の顔を引っかくくらい威勢の良かったお前に戻ってくれよ」
恋しさのあまり、春泉を押し倒そうとした秀龍の頬を盛大に引っかいて秀龍に悲鳴を上げさせた十年前の小虎はもういない。
月日のなせる業とはいえ、そのことは春泉に言い知れぬ哀しみを与えた。
外に愛人を囲い、ろくに家に寄りつきもしない父と、父に対抗するように若い男たちとの情事に耽っていた母。乳母の他に心をひらく相手のいなかった春泉にとって、小虎はかけがえのない友であり、家族であった。
父を失った後も、秀龍の妻となってからも、小虎はいつも春泉の傍にいて、見守り続けてくれたのだ。小虎のいない日々なんて、考えられないし、考えたくもない。
それでなくとも、乳母玉(オク)丹(タン)が去年の冬、去っていったという経緯がある。