淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第16章 眠れる美女
漢海の娘―金氏の若夫人がつい先頃、急な病で倒れたと聞いた。急とは言うものの、夫人は幼時から、てんかんを患っていて、突然、気を失ったりするのは珍しくないという。今回もどうやら、その発作を起こしたのだが、いつもなら何日か寝ていれば起きて動けるようになるのに、回復がはかばかしくない。
―そのような噂を秀龍が耳に入れ、昔のよしみで見舞いにゆかぬわけにはいかないと言ったのだ。
―あの方は隠居なされたとはいえ、いまだに国政にも隠然とした影響力を持っている。その息女が嫁ぎ先で倒れたと聞けば、知らん顔をするわけにもゆくまい。
というのが秀龍の弁であった。
まあ、その言い分には至極納得できるのだが、この金氏の若夫人鈴(ジヤク)寧(ニヨン)という女性が春泉には苦手なのだ。もっとも、鈴寧に逢ったのはたったの一度きりなのではあるが、そのときの印象があまりにも強烈すぎた。
一年前、秀龍の父皇才偉(ジェウエ)が誕生祝いの宴を催したことがあった。秀龍の位階が昇進したのと同様に、舅も右賛成(ウチヤンソン)を経て、右議(ウイ)政(ジヨン)にまで上りつめた。今や、この国の国政を担う議政府の三政丞(チヨンスン)の中の一人である。
皇氏の家門は今や、飛ぶ鳥を落とす勢いだとさえ言われていた。右議政の父才偉と兵曹参判の嫡子秀龍は国王の信頼も厚い忠臣だ。
その祝宴には、金氏からも当主の吏曹判書金尚舜、更に跡取り息子夫婦も招かれ、出席していた。当然ながら、才偉の息子の嫁である春泉も出ていて、その席で鈴寧を見かけたのである。
噂に違わず、派手やかな美貌の持ち主であった。今年、三十歳になると聞いているが、女としてはやや盛りを過ぎようという時期になっても、その華やかな色香はいささかも衰えてはおらず、むしろ、しっとりとした色香が匂わんばかりに漂っていた。
どういうわけか、この鈴寧は秀龍の傍にばかり寄ってきて、あからさまな媚を見せて迫っていた。両班、しかも吏曹判書の一族ともなれば、家格に応じたそれなりの品位と行動を求められて当然ではあるが、この鈴寧はそのようなことには、少しも頓着しない質のようで、見ていて、一緒に来た彼女の良人の方が気の毒になる有り様であった。
―そのような噂を秀龍が耳に入れ、昔のよしみで見舞いにゆかぬわけにはいかないと言ったのだ。
―あの方は隠居なされたとはいえ、いまだに国政にも隠然とした影響力を持っている。その息女が嫁ぎ先で倒れたと聞けば、知らん顔をするわけにもゆくまい。
というのが秀龍の弁であった。
まあ、その言い分には至極納得できるのだが、この金氏の若夫人鈴(ジヤク)寧(ニヨン)という女性が春泉には苦手なのだ。もっとも、鈴寧に逢ったのはたったの一度きりなのではあるが、そのときの印象があまりにも強烈すぎた。
一年前、秀龍の父皇才偉(ジェウエ)が誕生祝いの宴を催したことがあった。秀龍の位階が昇進したのと同様に、舅も右賛成(ウチヤンソン)を経て、右議(ウイ)政(ジヨン)にまで上りつめた。今や、この国の国政を担う議政府の三政丞(チヨンスン)の中の一人である。
皇氏の家門は今や、飛ぶ鳥を落とす勢いだとさえ言われていた。右議政の父才偉と兵曹参判の嫡子秀龍は国王の信頼も厚い忠臣だ。
その祝宴には、金氏からも当主の吏曹判書金尚舜、更に跡取り息子夫婦も招かれ、出席していた。当然ながら、才偉の息子の嫁である春泉も出ていて、その席で鈴寧を見かけたのである。
噂に違わず、派手やかな美貌の持ち主であった。今年、三十歳になると聞いているが、女としてはやや盛りを過ぎようという時期になっても、その華やかな色香はいささかも衰えてはおらず、むしろ、しっとりとした色香が匂わんばかりに漂っていた。
どういうわけか、この鈴寧は秀龍の傍にばかり寄ってきて、あからさまな媚を見せて迫っていた。両班、しかも吏曹判書の一族ともなれば、家格に応じたそれなりの品位と行動を求められて当然ではあるが、この鈴寧はそのようなことには、少しも頓着しない質のようで、見ていて、一緒に来た彼女の良人の方が気の毒になる有り様であった。