淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第3章 父の過ち
「あんたは、そんなことはしない。遊び人ではあるが、信頼を裏切るような男じゃない」
「仮にも、だ。手を尽くしても、〝光王〟とやらに接触できなかったら、どうする?」
二人の視線が真正面からぶつかった。
ややあって、ソヨンが破顔した。
「そのときは、あんたが取っておけば良い。手数料ってことで」
「良いのか?」
ああ、と、ソヨンは淡々と頷く。
「判った。確かに引き受けた」
光王は、ソヨンの眼を見つめて、はっきりと言った。
「難しそうだが、何とかしてみる。〝光王〟とやらに逢って、必ずこれを渡すよ」
光王はこの時、確かに請け合った。
「じゃあ、俺はこれで行くよ」
ソヨンが立ち上がり、ズボンについた草の葉を手で払う。河原には一面に丈の低い草むらがひろがっているのだ。
「くれぐれも妙なことは考えるな。妹は兄貴が死んでも歓ばねえ。歯を食いしばって、生きろよな」
光王は言わずにはいられなかった。
「一度棄てた生命だ。俺はこの生命は、あんたに拾って貰ったと思ってる。大切にするよ。―あんたのことは一生、忘れない」
「ヘッ、そんな科白は女に言って欲しかったね」
光王がおどけて言うと、ソヨンはまた笑った。どこか淋しげではあるけれど、先刻までとは異なり、憑きものが落ちたような、すっきりとした良い表情をしている。
これなら、大丈夫そうだな。
光王もまた晴れやかな顔で頷いた。
手のひらの上の巾着を改めて見つめる。空の蒼を閉じ込めたかのような小さな巾着を振ると、玉と玉が触れ合う涼やかな音色が聞こえた。
これが、生命の値段。そう思うと、どこかやり切れない気持ちになった。
執事は供養料というよりは、口止め料の意味合いでこれをソヨンに届けたのだろう。そして、ソヨンはそれを〝光王〟に渡した。
つまり、この巾着の中身はソヨンの妹の生命の値段でもあり、また、〝光王〟がこれから殺す男の生命の値段でもある。とはいえ、ソヨンが大方を妓生たちにやってしまったというから、男の生命の対価は大幅に低くなってしまうことになるが。
都漢陽の闇の世界で暗躍する暗殺者集団、その名も〝光の王〟という。
「仮にも、だ。手を尽くしても、〝光王〟とやらに接触できなかったら、どうする?」
二人の視線が真正面からぶつかった。
ややあって、ソヨンが破顔した。
「そのときは、あんたが取っておけば良い。手数料ってことで」
「良いのか?」
ああ、と、ソヨンは淡々と頷く。
「判った。確かに引き受けた」
光王は、ソヨンの眼を見つめて、はっきりと言った。
「難しそうだが、何とかしてみる。〝光王〟とやらに逢って、必ずこれを渡すよ」
光王はこの時、確かに請け合った。
「じゃあ、俺はこれで行くよ」
ソヨンが立ち上がり、ズボンについた草の葉を手で払う。河原には一面に丈の低い草むらがひろがっているのだ。
「くれぐれも妙なことは考えるな。妹は兄貴が死んでも歓ばねえ。歯を食いしばって、生きろよな」
光王は言わずにはいられなかった。
「一度棄てた生命だ。俺はこの生命は、あんたに拾って貰ったと思ってる。大切にするよ。―あんたのことは一生、忘れない」
「ヘッ、そんな科白は女に言って欲しかったね」
光王がおどけて言うと、ソヨンはまた笑った。どこか淋しげではあるけれど、先刻までとは異なり、憑きものが落ちたような、すっきりとした良い表情をしている。
これなら、大丈夫そうだな。
光王もまた晴れやかな顔で頷いた。
手のひらの上の巾着を改めて見つめる。空の蒼を閉じ込めたかのような小さな巾着を振ると、玉と玉が触れ合う涼やかな音色が聞こえた。
これが、生命の値段。そう思うと、どこかやり切れない気持ちになった。
執事は供養料というよりは、口止め料の意味合いでこれをソヨンに届けたのだろう。そして、ソヨンはそれを〝光王〟に渡した。
つまり、この巾着の中身はソヨンの妹の生命の値段でもあり、また、〝光王〟がこれから殺す男の生命の値段でもある。とはいえ、ソヨンが大方を妓生たちにやってしまったというから、男の生命の対価は大幅に低くなってしまうことになるが。
都漢陽の闇の世界で暗躍する暗殺者集団、その名も〝光の王〟という。