淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第4章 母の恋
大体、気位の高い姑は最初、二人の結婚でさえ猛反対していた。千福の気持ちが確固たることを知り、渋々、チェギョンが家族と訣別するのを条件に結婚が認められたという経緯があった。
家族を、恋人を棄ててまで選び取ったこの人生は、果たして正しかったのだろうか。チェギョンだけを愛してくれると信じた千福は、賑々しい祝言を挙げたその翌日、側妾を同じ屋敷内に置いていると判明した―。
以来、何度、良人の女好きに泣かされたことか。期待と信頼は呆気なく裏切られ、愛情は踏みにじられた。その結果、彼女の心に残ったのは良人への憎悪と果てのない空しさだけだった。
美しい少年が、月の精が、妖しい笑みを刻み、彼女を差し招く。
チェギョンの胸の鼓動が知らず速くなった。
「―」
チェギョンは無意識の仕種で、片手で胸許を押さえていた。
自分の息子ほどの歳の少年の中に〝男〟を感じるとは、我ながら自己嫌悪に陥りそうだ。まあ、若い男とこれまでに何度も逢瀬を持っておきながら、今更でもないが―。
「美しい奥さま、行商の小間物屋にございます。もしよろしければ、色々と奥さまのお歓びになりそうな品々をお見せ致しましょう」
少年が低い、よく響く声音で言った。
この少年は、声ですら、聞く者を幻惑せずにはいられないようだ。
まるで、生ける美しき魔物。
チェギョンは首を振った。いけない。この子の瞳を見ていると、本当に心まで持っていかれてしまう。
しかし、次の瞬間、もう一人の自分が囁いた。
どうせ何度も似たような歳格好の若い男と同じことを繰り返しているのではなくて? 今更、偽善者ぶる必要はない。この子が欲しければ、さっさと物にしてしまえば良い。
「良いでしょう。丁度、髪に飾る簪か指輪か、耳輪、何か欲しいと思っていたところよ。お前の商う品を見せてちょうだい」
自分の声が遠く聞こえる。まるで水底(みなそこ)から響いてくるように、自分の声でありながら自分のものではないような、この感覚。
ああ、いけない、このままでは魂まで絡め取られてしまう―。
家族を、恋人を棄ててまで選び取ったこの人生は、果たして正しかったのだろうか。チェギョンだけを愛してくれると信じた千福は、賑々しい祝言を挙げたその翌日、側妾を同じ屋敷内に置いていると判明した―。
以来、何度、良人の女好きに泣かされたことか。期待と信頼は呆気なく裏切られ、愛情は踏みにじられた。その結果、彼女の心に残ったのは良人への憎悪と果てのない空しさだけだった。
美しい少年が、月の精が、妖しい笑みを刻み、彼女を差し招く。
チェギョンの胸の鼓動が知らず速くなった。
「―」
チェギョンは無意識の仕種で、片手で胸許を押さえていた。
自分の息子ほどの歳の少年の中に〝男〟を感じるとは、我ながら自己嫌悪に陥りそうだ。まあ、若い男とこれまでに何度も逢瀬を持っておきながら、今更でもないが―。
「美しい奥さま、行商の小間物屋にございます。もしよろしければ、色々と奥さまのお歓びになりそうな品々をお見せ致しましょう」
少年が低い、よく響く声音で言った。
この少年は、声ですら、聞く者を幻惑せずにはいられないようだ。
まるで、生ける美しき魔物。
チェギョンは首を振った。いけない。この子の瞳を見ていると、本当に心まで持っていかれてしまう。
しかし、次の瞬間、もう一人の自分が囁いた。
どうせ何度も似たような歳格好の若い男と同じことを繰り返しているのではなくて? 今更、偽善者ぶる必要はない。この子が欲しければ、さっさと物にしてしまえば良い。
「良いでしょう。丁度、髪に飾る簪か指輪か、耳輪、何か欲しいと思っていたところよ。お前の商う品を見せてちょうだい」
自分の声が遠く聞こえる。まるで水底(みなそこ)から響いてくるように、自分の声でありながら自分のものではないような、この感覚。
ああ、いけない、このままでは魂まで絡め取られてしまう―。