
淫らな死体~お嬢さま春泉の秘密~④
第5章 意外な再会
「―!!」
刹那、春泉の双眸が光王を射るように大きく見開かれた。
「スンジョンのお兄さんがお父さまを?」
「―だから、お前も気をつけた方が良い」
光王は今度こそ背を向け、足早に去ってゆく。
お父さまが殺される?
それは、俄には信じがたい事実であった。光王特有の皮肉というか当てこすりかとも思ったけれど、そんな物騒なネタで彼がふざけるとも思えない。
何より―、気をつけた方が良いと告げられたときの光王の瞳は怖かった。透徹な瞳は蒼く透き通り、まるで春泉を憎んでいるかのように奥底で憎しみの焔がひらめいていた。
光王の広い背中が緑の樹々の向こうへと吸い込まれ見えなくなると、春泉は背後を振り返った。
母の房の方をそっと窺うと、眠っているのか、建物の中からはひっそりと物音一つ聞こえてこない。
突然、脚許に温かなものが触れ、春泉は愕いて小さな叫び声を上げてしまった。
ニィと甘えた啼き声を上げているのは、むろん愛猫小虎である。長らく放ったらかしにされ、小虎は至極不満の様子だ。仔猫は訴えかけるように啼きながら、春泉のチマに纏いついている。もっとも、当の猫はじゃれているつもりかもしれないが。
それでも、春泉が〝おいで〟と両腕を伸ばせば、すぐに飛び乗ってくる。ほどなく小虎は彼のお気に入りの定位置にすっぽりと納まり、ご満悦の表情だった。
春泉の懐に抱かれて戻ってきた小虎を見て、居間で待ち受けていた玉彈が笑った。
「まあまあ、小虎は猫とはいえ、流石に男ですねえ。お嬢さまの腕の中がいちばんのお気に入りだとは」
春泉は玉彈の他愛ない戯れ言に、一緒になって笑うことはできなかった。
―手練れの刺客に、妹の恨みを晴らして欲しいと頼んだそうだ。
光王の言葉がどうしても耳奥で甦ってくる。
いっそのこと、これまで何でも相談してきた乳母にだけは話してみようかと思ったけれど、仮に打ち明けたとしても、かえって心配をかけてしまうだけだ。
光王が全くの出たらめを言ったとは思わないが、さりとて、彼の言どおり、刺客が柳家の屋敷に乗り込んできて、父を殺すとは信じがたい話であった。
刹那、春泉の双眸が光王を射るように大きく見開かれた。
「スンジョンのお兄さんがお父さまを?」
「―だから、お前も気をつけた方が良い」
光王は今度こそ背を向け、足早に去ってゆく。
お父さまが殺される?
それは、俄には信じがたい事実であった。光王特有の皮肉というか当てこすりかとも思ったけれど、そんな物騒なネタで彼がふざけるとも思えない。
何より―、気をつけた方が良いと告げられたときの光王の瞳は怖かった。透徹な瞳は蒼く透き通り、まるで春泉を憎んでいるかのように奥底で憎しみの焔がひらめいていた。
光王の広い背中が緑の樹々の向こうへと吸い込まれ見えなくなると、春泉は背後を振り返った。
母の房の方をそっと窺うと、眠っているのか、建物の中からはひっそりと物音一つ聞こえてこない。
突然、脚許に温かなものが触れ、春泉は愕いて小さな叫び声を上げてしまった。
ニィと甘えた啼き声を上げているのは、むろん愛猫小虎である。長らく放ったらかしにされ、小虎は至極不満の様子だ。仔猫は訴えかけるように啼きながら、春泉のチマに纏いついている。もっとも、当の猫はじゃれているつもりかもしれないが。
それでも、春泉が〝おいで〟と両腕を伸ばせば、すぐに飛び乗ってくる。ほどなく小虎は彼のお気に入りの定位置にすっぽりと納まり、ご満悦の表情だった。
春泉の懐に抱かれて戻ってきた小虎を見て、居間で待ち受けていた玉彈が笑った。
「まあまあ、小虎は猫とはいえ、流石に男ですねえ。お嬢さまの腕の中がいちばんのお気に入りだとは」
春泉は玉彈の他愛ない戯れ言に、一緒になって笑うことはできなかった。
―手練れの刺客に、妹の恨みを晴らして欲しいと頼んだそうだ。
光王の言葉がどうしても耳奥で甦ってくる。
いっそのこと、これまで何でも相談してきた乳母にだけは話してみようかと思ったけれど、仮に打ち明けたとしても、かえって心配をかけてしまうだけだ。
光王が全くの出たらめを言ったとは思わないが、さりとて、彼の言どおり、刺客が柳家の屋敷に乗り込んできて、父を殺すとは信じがたい話であった。
