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日曜日の夜は

第4章 カフェモカ

 目の前に座る女は、一週間前に会ったばかりだ。同僚に誘われた飲み会で知り合った。

「甘いものが好きじゃないってきいたから」

 恥ずかしげに呟いて、わたしの前に白い包みを差し出した。

「うん? なにこれ」

「さっき買って来たんです……ビターチョコなんですけど」

 上目づかいでこちらをうかがう彼女は、白い肌に巻き髪を弾ませて、ピンクのワンピースがよく似合っている。

「あ、ああ……ありがとう」

 出会ったばかりだというのに、わたしの誕生日だからと言って、わざわざ仕事帰りに買ってきたそうだ。

 わたしは白いシフォンの包みへ手を伸ばし、しばらく眺めた。ブルーの造花とリボンが結ばれている。年の離れた彼女のかわいらしさをそのままあらわしているようだ。

 自分の口が勝手に弧を描いているのに気づきはっとして、彼女が好きだというカフェモカへ視線をやった。年甲斐もなく、プレゼントが嬉しくて、そして照れくさくて仕方なかった。

 週末のスターバックスは混雑している。ささやき声も聞き取れないほどだ。いまだ彼女が話していることに、わたしは気がついた。

「おつきあいしている方って……いらっしゃるんですか?」

「えっ?」わたしの体は硬直した。ついに彼女の瞳を見つめていた。

 かすかに手が汗ばみ、シフォンの包装紙が温まる。「ああ、うん」わたしはそのラッピングに視線を落とした。

 それを見つめながら、ゆっくりと口を開く。

「いないよ」

 ――なお美……元気なのか? かつて交際していた彼女の名を、心のなかで呟いていた。

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