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日曜日の夜は

第5章 夜の海で

 僕は、人と一線をひいて生きている。なぜって、煩わしいことを考えずにすむから。

「どう思う?」

 ミカは無邪気に僕の領域にズカズカと踏み込む。十歳下だから、仕方のないことだと割りきれる。だが、たまにいとわしく思えるときもある。

 夜の帳がおりた海岸は、波が白く泡立っている。

 涼しい風と、この潮の香りだけが僕の胸を爽やかに通り抜けた。

「ねえってば!」

「ああ……うん」僕は言葉に詰まる。

 昨日、ミカの両親が離婚したらしい。それについてミカは「よりを戻さないかなあ」と言った。そして、僕にたずねてくるのだ「どう思う?」って。

 僕の一言で、別れた二人が元に戻るほど、離婚はロマンチックな物語ではないだろう。それを「どう思う?」と聞かれても、正直困る。

「……ねえ」

 ミカはとうとう泣き出してしまった。

「うん」適当な言葉が浮かばない。隣を見ると、長い髪のなかでミカはうつむいていた。

 制服のスカートにぽたりと涙が落ちる。彼女は両眼をこすって、ひと思いに悲しみを出しきろうとしていた。やもたてもたまらず、僕は彼女の肩をつかんだ。

「こうするしかできないよ」

 言ってすぐミカを抱きしめた。ミカの華奢な身体が弾んでぶつかってくる。細い肩が、小さな胸が、胸板にぴったりとくっついた。

 とたんにミカは声を出して泣きはじめた。せっかくの波音も癒やしにならず、僕はただ安らぎを与えたくて彼女を抱きすくめる。彼女の熱い思いは体温にとってかわり、心を突き抜け、背中までしみこむようだった。

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