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日曜日の夜は

第3章 かけひき

 いまできることは――そう思って手を握りしめた。

 深夜二時の交差点。

 タクシーをひろう、どさくさまぎれに、彼女の冷たい手を引っ張った。

「ちょっとお」君は眉をひそめ、不機嫌そう。「なにすんの。痛い」

「なにか?」

 僕はふふんと笑う。

 幻滅されてもかまうもんか。君に触れたかった。ただ、それだけ。

 そ知らぬふりなどできなくて、夕食に誘い、暗がりのバーでマティーニを流し込む。気になるようすで君をちらちら見ていたのに、君はといえばこちらの意図を見透かしているのか、思わせぶりな朗笑をたたえるだけ。ズルいよ。

 これからどうする? みたいな雰囲気になって、でも「明日も早いしね」と君が言う。

 君のそばにいたくて、つながりたくて、たまらなくなって君の手を握ったんだ。

「もう一件、行きたいとこがあるんだ」

 有無を言わせず、ぐいっと彼女を引き寄せた。

「困るよ」君が意地悪っぽく笑う。

「明日、おぼえてなよ」

「了解」

 僕たちの前にタクシーがとまる。二人ともすっと乗り込み、僕が運転手へ行き先を伝えた。すると彼女がけらけらと笑った。

「ストレートすぎるよ」

「こうでも言わなきゃ」僕はにっとした。



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