All Arounder
第31章 Have A Gun
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立てた線香から煙が立ち上り、辺りはその香りで満たされた
強い風が時折吹くと、煙と一緒に供えた花まで
パラパラと散っていった
『じゃあ…お姉さん、病気で亡くなったんだね…』
「いや…違う」
井上はうなだれるように頭を垂れた
『え?』
「七香は…俺が殺した」
一層強い風が吹いた
髪が視界に入り、どけようとしたが
井上から目を離すことはできなかった
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七香が余命宣告を受けてから、半年がたった
「七香、何が食いたい?」
「退斗が作ってくれたものなら…何でも食べたいなぁ…」
その笑顔は、昔ほど生き生きとはしてなくて
体を起こすことさえ苦しそうな七香を見るのは
とても、つらかった
「じゃあ、お粥作ってやるよ」
残り半年の七香の命を、俺がどうやって輝かせてやれるか
見当もつかなかった
それでも、七香が俺に、無理してでも笑っていてくれるなら
俺はその笑顔に応えてやりたいと
心底そう思った
「あ」
食料品が切れていたことに気づいた
「七香、ちょっと買い物行ってくるな」
俺は財布を持って、家を飛び出た
「最近物騒よねー」
「そうそう、この前も〇〇町で強盗があったって…」
「えー、近いじゃないの…確か、犯人はまだ捕まってないのよね?」
近所の人が喋っているのが耳に入った
しかしそんなことはどうでもいい
今は、七香に美味いもん食わせてやるだけだ