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All Arounder

第31章 Have A Gun







「―――もって後、一年といったところでしょう」






やたら白くって


やたら薬品臭い部屋で、医者から言われた一言




「…一年…ですか」




今でもよく覚えている


俺が見上げると、マスターは今まで見たことのないほど
悲しそうな顔をしていた





「マスター…何が一年なんだ?」




理解していた



してはいたけど





受け入れたくなかった







「…退斗…」








七香の死が




近いということを









――――







「マスター…ありがとうございました」




病院を出る際に、七香は弱々しい声で言った





「家でも、無理しないようにな」




「はい…
退斗と…一緒にいてあげようと思います
…マスター…」






俺は


マスターにおんぶしてもらいながら



寝たふりをしていた






「あたしが死んだら…退斗をよろしくお願いします…」







死んだらとか





言うなよ






死んだらとか…





「ななか…」




俺は、今し方目を覚ましたように振る舞った





「あ…退斗、起きた?」




「うん…」





俺はマスターの背中から下りると、七香と手を繋いだ





「帰ろ」




「…そうだね」







あと一年しか生きられないとわかっているのに


どうしてそこまで、俺に笑いかけてくれるのか

わからない





けど…




「…お腹空いた」




「退斗の好きなもの、作ってあげるね」





それなら俺は




七香の残りの人生を




大切にしてやりたい















大切に…




してやりたかった















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