All Arounder
第9章 A Couple of Night
母親は死んだ
そう理解するまでに、長い時間がかかった
そのうちに姫は小学生になり、少しずつ世間というものを認識し始めていった
「娘さんは本当に器量良しですね、西浦社長」
「きっと美しいお嬢さんになりますよ」
「何よりも笑顔が素敵で…楽しみですね」
父親と、その他たくさんの大人が喋っていた
姫はこっそりとその様子を伺っていた
何となく自分のことを喋っているんだろう
とは思ったが…
細かいことまではわからなかった
「姫」
部屋で、父親に呼ばれた
『はい、お父様っ』
姫はトコトコと父親のそばまで歩いていく
すると父親は、姫の手を握った
「これからは…笑うな」
『え?』
「人前で絶対に笑うな。
お前がほほ笑めば、人は惑わされる
お前がほほ笑めば、人はそれに付け込んでくる」
『お父様…?』
何を言っているのだろう
お父様は、何を言いたいのだろう…?
「約束だ、姫
これからは何があっても人前で笑顔を作るな
…それがお前を…家を守るためだ」
『…わかりました』
意味がわからなかった
最初はもちろん、笑顔を絶やすだなんてことは出来なかった
しかし、毎日毎日"笑うな"と言われ続け
気がつけば
笑わないことなど、苦ではなくなっていった
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