All Arounder
第9章 A Couple of Night
――――――――――
「父親に…言われてたのか?」
『うん』
姫はベッドの上で膝を抱えて座った
「それからずっと、笑ってねぇのか?」
『違う
あの頃は、笑おうと思えば笑えた…』
表情はなかったが、声は悔しがっているように聞こえた
『あれは…あたしが14歳の時だった…――――』
――――――――――
――――
「姫ちゃん、こんにちは」
『こんにちは』
「久しぶりだね、覚えてる?」
『先週お会いしたばかりなので』
「あ、そーかそーか、ははは」
今、あたしに話し掛けている男は
立入敬介(タチイリ ケイスケ)という、お父様の知り合いだ
とは言え、まだ若い
おそらく20代中頃だろう
「ところで姫ちゃん、一回庭に出てみない?」
『結構です』
この時はもちろん、笑顔を作ることはなかった
ちゃんとお父様の言い付け通り、無表情で人と接していた
なるほど…
自分が笑顔を作らなくなってからは、あたしに声を掛けてくる人はずいぶんと減った
少し寂しい気もしたが、我慢していたのだ
けれどこの、立入敬介という男は
しょっちゅうあたしに声を掛けてきた
「まあそう言わずに、行こうよ」
『あっ…』
立入はあたしの腕を掴み、庭へ連れていった