狼と白頭巾ちゃん
第20章 空の花
ドドドドオォォォォ
ちゃぷ……ちゃぷ………
ライラは、ぼんやりする意識の中で、けたたましい轟音と、それとは別の小さな水音を聞いていた。
(ん……、ここ、は……?)
うっすら目を開けると、視界の端に浅黒く逞しい腕があり、その腕が水を掬ってライラの身体を流しているのが見えた。
(冷たい……、けど、気持ちいい…)
まだぼやける意識の中、次に目覚めた感覚が、水の冷たさと身体に触れる浅黒い手のほのかな温もりを感じ取った。
(誰…?)
「気が付いたかい?ライラ…」
無意識に浅黒い腕へと伸ばした手はそっと握られ、腕の持ち主の頬へと導かれた。
「シン……」
ライラは自分が今、シンの腕の中にいる事を知った。
けれど、全身を包む気怠さと、相手がシンであるという安心感からか、ライラの意識は今ひとつ覚醒しきれないでいた。
ぼんやりしているライラの瞳の向こうで、シンはうっすら微笑んだ。
そしてライラの小さな手に頬ずりした後、その手を口へと運び、手の平で口元を覆うようにしてキスを落とした。
シンの優しい微笑みと、手の平に感じる温かく柔らかい唇の感触が、ライラの胸を、幸福感でいっぱいにしてゆく。
…知らず、笑みが零れた。
シンもそれに応えて、にこっと笑う。
しかし、次の瞬間には、その笑顔は寂しげなものへと変わった。
「身体は大丈夫みたいだね?御免よ…、乱暴にして…」
(…乱暴…?シンに乱暴にされたことなんて…、一度も…………。っ⁈‼‼)
ライラは一気に覚醒した。
気を失う前、自分の身に何が起こったのか、思い出したのだ。