狼と白頭巾ちゃん
第15章 一輪の花
翌日の朝、ライラは森の小道を走っていた。
その手には、今朝の贈り物である木いちごが、布にくるまれ握られていた。
やがて、いつも待ち合わせをしていた辺りまで来ると、速度を緩め息を整えた。
周りに誰もいないことを慎重に確認して、一度深呼吸すると、ライラは少し声を抑えて、呼び掛けた。
「…シン?…いる…?」
森は声を吸い込み、鳥のさえずりのみが帰って来る。
もう一度呼び掛けようと、ライラが口を開いた時だった。
突然、鳥達がバサバサと羽根を鳴らし、一斉に飛び立っていった。
驚いて見上げていたライラの耳に、木の影からカサリと音が聞こえ、
はっとして振り向くと、さっきは無かった黒い影がそこにあった。
「シン、そこにいるの?」
問いかけたライラに、影が応えた。
「…ライラ…」
声は悲しく沈んでいる。
ライラは胸の奥が締め付けられるように痛むのを感じながら、努めて明るく声を掛けた。
「シン?長い間来れなくてゴメンなさい。私、あなたに…「無理しないで…」
「え…?」
言い終わらぬ内に、シンが言葉を遮った。
「…無理しないで、ライラ。俺が怖かったんだろ?もう…、会いに来なくても良いから……」
笑いながら、でも泣きそうな声が、ライラに届いた。
その声が、ライラの胸を一層締め付ける。
「イヤよ‼‼」
ライラは叫んだ。
「っ⁈」
木の影から、驚いた息遣いが聞こえ、
ライラは言葉を遮られまいと、捲し立てた。
「私はシンに会いたかったからここに来たの!確かにあの時は怖かったけど今は違う‼もう怖くなんかない‼だから来るななんて言わないで‼‼」
「……ライ、ラ……」
はぁ、はぁ、と上がる息を整えながら、ライラは続けた。
「…あなたに、会いに来れなかった間、いろんな事を考えたわ。シンのこと。自分のこと。色々考えた。」
「贈り物、あなたからでしょう?私、嬉しかった」
「ライラ…」
「花は枯れてしまったけど、木の実や石は部屋に大切に飾ってあるわ。これも、あなたからでしょ?」
言いながら、ライラは手の中の包みを広げた。
包みの中から、美味しそうな木いちごが顔を出す。
微笑みながら、ライラは言った。
「…あなたが、好き…」