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対峙

第1章 episode 0

大丈夫、寂しいなんて思わない。
もともとひとりは慣れっこだから。


゛感情が欠落している゛

陰でそう言われていることは知っていた。
ただボクは感情が欠落している訳じゃなく、ちゃんと喜怒哀楽を持っている。
表現する先がないだけで。

孤児院に来て何年だろう…
ボクは不自由なく不満なく日々を過ごせている。
ふと足元にサッカーボールが当たった。
視線をボールから中庭へ移すと、眉を寄せ不安げな顔の三人と目が合った。

「…はい」

ボールを両手に取り、中庭に向ける。
三人のうち一人が恐る恐るボクからボールを受け取る。
それだけなのに彼の手は微かに震えていた。
取って食べたりしないよ…
言ったところで意味を成さないことを知っている。
言葉に力が無いことをボクは知っている。
足早にその場を去る三人に、ボクはただ立ち尽くすしかないのだから。

大丈夫、ひとりは慣れっこだから。

ボクはボクに言い聞かせ、薄く息を吐いた。

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