眠れぬ王子と猫な僕
第9章 風邪
妖巳の爪は長めで鋭く尖っていた。
その爪で俺の腕を引っ掻く。
「僕は、お母さんのとこに行くのッ!沢山お金を稼いだら、きっと一緒に暮らしてくれるもんっ!!お母さん、僕のこと、愛してくれるもんッ!!!」
傷口から血が流れる。
でも、こんな妖精巳を見ていると体より心が痛かった。
妖巳は今もなお、心の何処かで期待してたんだ。
母親と過ごす幸せな日々を……。
それはあり得ることじゃない。
それでもいつかは愛してくれるんじゃないかと、
その僅かな希望を棄てきれずにいる。
それは、ごく自然な考えかもしれない。
それ故、苦しんでいる。
今の妖巳は、泣き叫んで暴れている。
「お母さん!おかぁさぁん……!!離してッ離してッ!!!!」
―――ガシャンッ
俺の手を振り払った妖巳の左手は、骨董品を並べた棚にぶつかり、棚が倒れて物凄い音がした。
*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*
『な、何事ですかっ!?』
入って来たのは明日香だった。
「明日香、精神安定剤持ってこい。睡眠薬でも良い。」
「イヤだ!!離せ!僕、お母さんにっ!助けてっ!!――――大野さんッ!」
な、
大野さん………?
何だよ、ソレ。
お前を助けたのは俺だろ。
我慢出来なくなって、妖巳の顎を掴み口付けようとした。
「逆効果、ですよ。睡眠薬を用意しました。早い方が良いと思ったので…。」
「明日香……。」
「今の妖巳様にキスは、火に油でしょう。」
「注射するので、退いてください。右腕を押さえて下さい。」
「やだやだ!!僕に触らないでッ!!!お母さぁん!!」