神さま、あと三日だけ時間をください。
第4章 ♭切ない別れ♭
シュンとの身を切るような別離の後、美海は周辺の幾つかの寺を巡った。一生の想い出になるであろう至福の時間を過ごした場所であり、もう二度と来ることもないであろうI町。
未練だとは思ったけれど、せめてもう少し、この地にいたかったのだ。いにしえびとの想いと哀しみがつまった史跡を巡り、やっと下りの電車に乗り込んだ時、I駅の時計は三時前を指していた。
電車に揺られること三時間余りで、美海を乗せた普通列車はN駅に到着する。住み慣れた町、よく利用する駅の光景を眼にした刹那、美海はいつにない疲れを憶えた。
すべては終わったのだ。
鉛のように重たい身体を意思の力だけで動かすようにして駅の陸橋を渡り、改札口へと向かう。階段を下りてくる途中、改札口が眼に入った。
改札口の前に立って、琢郎が所在なげに往来を見ている。時折、背後を振り返り、電車が到着する度に吐き出されてくる人を見ていた。明らかに人を探しているようで、いちいち側を通る人の貌を見ては、はっきりと落胆の表情を浮かべている。
と、上りの電車が着いて、また、纏まった数の乗客が降りてきた。小柄な女性が改札口を抜けて外に出た瞬間、琢郎が側に駆け寄った。短い会話を交わした後、〝人違いでした、済みません〟と、しきりに謝っている。
白いブラウスと淡いブルーのセミフレアースカート、髪型までセミロングで、確かに、ちょっと見には美海によく似ている。
その様子を見て、美海は訳もなく泣きたくなった。
ああやってもう何年も、あの場所で待っていてくれたような気がする。もし美海がシュンと共に行く道を選んだとしたら、琢郎はあのまま一晩中、ああして待っていただろうか。
「ただいま」
近づいて声をかけると、琢郎は待っていたはずなのに、ギクリとしたような表情で美海を見た。
「お帰り」
琢郎が少し迷う素振りを見せ、ひと息に言った。
「三日前の夜は済まん。俺も少し性急すぎた。美海が嫌がるときは、もう無理強いはしないから」
「私もあなたに話したいことがあるの」
美海が言うと、琢郎は露骨に警戒の様子を見せた。
未練だとは思ったけれど、せめてもう少し、この地にいたかったのだ。いにしえびとの想いと哀しみがつまった史跡を巡り、やっと下りの電車に乗り込んだ時、I駅の時計は三時前を指していた。
電車に揺られること三時間余りで、美海を乗せた普通列車はN駅に到着する。住み慣れた町、よく利用する駅の光景を眼にした刹那、美海はいつにない疲れを憶えた。
すべては終わったのだ。
鉛のように重たい身体を意思の力だけで動かすようにして駅の陸橋を渡り、改札口へと向かう。階段を下りてくる途中、改札口が眼に入った。
改札口の前に立って、琢郎が所在なげに往来を見ている。時折、背後を振り返り、電車が到着する度に吐き出されてくる人を見ていた。明らかに人を探しているようで、いちいち側を通る人の貌を見ては、はっきりと落胆の表情を浮かべている。
と、上りの電車が着いて、また、纏まった数の乗客が降りてきた。小柄な女性が改札口を抜けて外に出た瞬間、琢郎が側に駆け寄った。短い会話を交わした後、〝人違いでした、済みません〟と、しきりに謝っている。
白いブラウスと淡いブルーのセミフレアースカート、髪型までセミロングで、確かに、ちょっと見には美海によく似ている。
その様子を見て、美海は訳もなく泣きたくなった。
ああやってもう何年も、あの場所で待っていてくれたような気がする。もし美海がシュンと共に行く道を選んだとしたら、琢郎はあのまま一晩中、ああして待っていただろうか。
「ただいま」
近づいて声をかけると、琢郎は待っていたはずなのに、ギクリとしたような表情で美海を見た。
「お帰り」
琢郎が少し迷う素振りを見せ、ひと息に言った。
「三日前の夜は済まん。俺も少し性急すぎた。美海が嫌がるときは、もう無理強いはしないから」
「私もあなたに話したいことがあるの」
美海が言うと、琢郎は露骨に警戒の様子を見せた。