
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第8章 発覚
「何か気になることでも?」
凛花が訊ねると、インスは渋々といった様子で頷いた。
「おかしいんだ。あまり馬には乗り慣れていないと聞いたゆえ、うちの馬の中でも特に大人しい気性の長生を選んだんだが、何故、急に暴れ出したのか」
凛花も白馬に近づいた、もうすっかりいつもの自分を取り戻したのか、長生は凛花が触れても微動だにせず、なされるままになっている。
凛花は白馬の身体をあちこちそっと触りながら、何か変わったところはないかと検分してみた。鞍の下に手を入れた時、ふと違和感を憶えた。更に深く手を差し入れると、確かに何か小さな尖ったものがある。
「これを見て」
凛花は手のひらにそれを乗せた。
「―針?」
「そのようだ。こんなものを入れられていては、確かに痛かろう」
「お前が乗れば、その重みで鞍下の針が長生の身体にズブリと刺さるって寸法だな」
凛花とインスはどちらからともなく視線を交わした。
インスが咄嗟に馬を止めてくれたから良かったようなものの、さもなければ、まともに落馬して大怪我をしていたかもしれない。いや、頭を強打していれば、冗談でなく死んでいたかもしれないのだ。
―死んでいたかもしれない? そこまで考えて、凛花は膚が粟立った。
「誰かが私を殺そうとした?」
「これで、はっきりと生命を狙われていることが判ったな」
インスが陰気に頷いた。
「先刻、俺が庭で聞いた物音は、こいつだったんだろう。何者かが文承を亡き者にしようと庭に忍び込み、鞍の下に針を仕込んだ」
「だが、誰が一体―」
凛花の脳裡に、山茶花村の人の貌が浮かぶ。チルボクの両親初め、村人の中には凛花を快く思っていない連中が多いのは確かだ。今までにも何度か村人が村長を訪れてきて、
―他所者をいつまで居候させておくつもりなんです? あの両班の若造が来てからというもの、村には不幸続きじゃありませんか。これ以上の犠牲が出ない中に、さっさと追い返して下さいよ。
と、烈しく抗議するのを物陰で耳にしたのだ。
凛花が訊ねると、インスは渋々といった様子で頷いた。
「おかしいんだ。あまり馬には乗り慣れていないと聞いたゆえ、うちの馬の中でも特に大人しい気性の長生を選んだんだが、何故、急に暴れ出したのか」
凛花も白馬に近づいた、もうすっかりいつもの自分を取り戻したのか、長生は凛花が触れても微動だにせず、なされるままになっている。
凛花は白馬の身体をあちこちそっと触りながら、何か変わったところはないかと検分してみた。鞍の下に手を入れた時、ふと違和感を憶えた。更に深く手を差し入れると、確かに何か小さな尖ったものがある。
「これを見て」
凛花は手のひらにそれを乗せた。
「―針?」
「そのようだ。こんなものを入れられていては、確かに痛かろう」
「お前が乗れば、その重みで鞍下の針が長生の身体にズブリと刺さるって寸法だな」
凛花とインスはどちらからともなく視線を交わした。
インスが咄嗟に馬を止めてくれたから良かったようなものの、さもなければ、まともに落馬して大怪我をしていたかもしれない。いや、頭を強打していれば、冗談でなく死んでいたかもしれないのだ。
―死んでいたかもしれない? そこまで考えて、凛花は膚が粟立った。
「誰かが私を殺そうとした?」
「これで、はっきりと生命を狙われていることが判ったな」
インスが陰気に頷いた。
「先刻、俺が庭で聞いた物音は、こいつだったんだろう。何者かが文承を亡き者にしようと庭に忍び込み、鞍の下に針を仕込んだ」
「だが、誰が一体―」
凛花の脳裡に、山茶花村の人の貌が浮かぶ。チルボクの両親初め、村人の中には凛花を快く思っていない連中が多いのは確かだ。今までにも何度か村人が村長を訪れてきて、
―他所者をいつまで居候させておくつもりなんです? あの両班の若造が来てからというもの、村には不幸続きじゃありませんか。これ以上の犠牲が出ない中に、さっさと追い返して下さいよ。
と、烈しく抗議するのを物陰で耳にしたのだ。
