
山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第8章 発覚
しかし、幾ら嫌われているとはいえ、殺されるほど憎まれているとも思えない。それとも、単なる嫌がらせなのだろうか。が、鞍下に針など隠しておけば、その上に乗れば馬が暴れ出し、大惨事を引き起こしかねないことは常識ある大人なら、誰だって判ることだ。単なる悪戯で片付けるには悪質すぎる。
「村の人ではないぞ」
凛花の胸中を見透かすかのように、インスが言った。
凛花がハッと見ると、インスが彼には珍しく言いにくそうに言った。
「俺が思うに、恐らくは県監の差し金だろう」
「あの夜は私たちは顔を見られたわけではない」
凛花が言い訳めいて言う。
インスが更に口ごもった。
「確かに顔は見られなかった。だが、少なくとも、県監は何者かが屋敷に忍び込んだことは知っている。しかも、蔵番の男たちが眠り薬を飲まされ、正体もなく眠らされてたんだ。その侵入者が単なる物盗りなんかじゃないことは察しがつくはずではないか?」
「そのとおりだ。だからこそ、私も一刻も早く次の手を打たねばと言った」
「できれば、これは黙っておこうと思っていたんだが―、県監の手下たちが村人に文承のことを色々と聞き回っているそうだ」
凛花が眼を見開いた。
「本当なのか?」
「チルボクの家にも来たそうだ。チルボクの妹が両親には内緒で教えてくれた。そこだけではない、殆ど村中にお前について知っていることがあれば話せと訊ね回っているようだ」
それは凛花にとって予想外の衝撃であった。都から流れてきて居着いた下級両班の放蕩息子―、上手く化けていると自分では思い込んでいたけれど、県監は凛花の存在を胡散臭く思い始めたのだ。
「先夜とは関係ないのかもしれないが、県監が文承を怪しみ始めていることは確実だ」
インスの呟きにも凛花は応えなかった。ひらりと白馬に乗ると、鞭をくれる。
「おい、文承!」
インスの焦った声が背後で聞こえる。
「どこにゆく気だ?」
インスは直に追いつき、二人は馬を並べて走らせた。凛花は更に鞭を当て、速度を上げる。
「文承、待てよ。馬に慣れていない奴が無茶をするな」
インスの声が追いかけてくる。
「村の人ではないぞ」
凛花の胸中を見透かすかのように、インスが言った。
凛花がハッと見ると、インスが彼には珍しく言いにくそうに言った。
「俺が思うに、恐らくは県監の差し金だろう」
「あの夜は私たちは顔を見られたわけではない」
凛花が言い訳めいて言う。
インスが更に口ごもった。
「確かに顔は見られなかった。だが、少なくとも、県監は何者かが屋敷に忍び込んだことは知っている。しかも、蔵番の男たちが眠り薬を飲まされ、正体もなく眠らされてたんだ。その侵入者が単なる物盗りなんかじゃないことは察しがつくはずではないか?」
「そのとおりだ。だからこそ、私も一刻も早く次の手を打たねばと言った」
「できれば、これは黙っておこうと思っていたんだが―、県監の手下たちが村人に文承のことを色々と聞き回っているそうだ」
凛花が眼を見開いた。
「本当なのか?」
「チルボクの家にも来たそうだ。チルボクの妹が両親には内緒で教えてくれた。そこだけではない、殆ど村中にお前について知っていることがあれば話せと訊ね回っているようだ」
それは凛花にとって予想外の衝撃であった。都から流れてきて居着いた下級両班の放蕩息子―、上手く化けていると自分では思い込んでいたけれど、県監は凛花の存在を胡散臭く思い始めたのだ。
「先夜とは関係ないのかもしれないが、県監が文承を怪しみ始めていることは確実だ」
インスの呟きにも凛花は応えなかった。ひらりと白馬に乗ると、鞭をくれる。
「おい、文承!」
インスの焦った声が背後で聞こえる。
「どこにゆく気だ?」
インスは直に追いつき、二人は馬を並べて走らせた。凛花は更に鞭を当て、速度を上げる。
「文承、待てよ。馬に慣れていない奴が無茶をするな」
インスの声が追いかけてくる。
