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山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~

第9章 生まれ変わる瞬間

「では、有り体に話そう。私が知っている情報では、そなたが殺害したのはイム・ヘジンだけではない。その他、十四名の娘たちがそなたの好色の犠牲になっている」
「そ、そんな。全く身に憶えのないことにございます」
 暗行御使の声が一段低くなった。
「多くの娘たちを略奪するように攫い、好き放題に弄び、あまつさえ虫けらのごとく殺すとは、その鬼畜にももとる所業、到底許しがたい」
 まるで真冬にこの地方に吹き荒れる吹雪のように冷え冷えとした声音である。
 それでも、ここは罪を認めてしまえばしまいだと、尚凞は歯を食いしばった。
 もしかしたら、暗行御使はまだ証拠を掴んでいないのかもしれない。だが、猿知恵の働く若造のことゆえ、証拠もないのに、さもある風に見せかけて巧みに尚凞を誘導して罪を認めさせようとしているのではないか。
「はて、何のことか、私にはとんと憶えがありません。幾ら御使(オサ)さま(ナーリ)とはいえ、いわれなき罪を私に着せて陥れることはできませんぞ。証拠は本当にあるのですか?」
 あくまでも知らぬ存ぜぬを決め込んだ。
 暗行御使が立ち上がった。
「証拠ならある。そなたに攫われ、危うく手籠めにされそうになったところ、間一髪のところで逃げ出した娘をここに連れてきた。おい、娘を連れてきなさい」
 尚凞がチッと小さく舌打ちを聞かせた。苦いものでも呑んだような表情になっている。
 ああ、何故、あの小娘を逃してしまったのか。あの娘をまんまと逃してしまったばかりに、柔肌に包まれて見る極楽の夢どころではなく、生命すらも危うくなろうしている。

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