山茶花(さざんか)の咲く村~男装美少女の恋~
第9章 生まれ変わる瞬間
尚凞は、たかが小娘一人と高を括っていたことを死ぬほど後悔した。昨夜、娘が逃げ出してからも、徹底的に捜索して探し出し、さっさと殺してしまえば良かったのだ。まさか、あの小娘の存在がこんな風に利用されるとは考えていなかったというのが本音だった。
しかし、娘はいつまで経っても現れない。
もしやと、尚凞はかすかな希望を抱いた。
「御使さま。その娘とやらは一体、どこにおるのですかな? 儂には一向に見えませんが」
と、暗行御使が庭へと続く階段をゆっくりと降りてくる。真っすぐに尚凞の手前まで歩いてきて、止まった。
「よおく眼を開けて見て下さい。私のこの顔をお忘れですか?」
暗行御使はそう言いながら、被っていた羽根つきの帽子を脱いだ。
「―?」
尚凞が首を傾げ、眼を眇める。若い御使の顔をしげしげと眺め入り、〝ああっ〟と烈しい驚愕の声を洩らした。
「そ、そなたはっ」
尚凞は惚けたように大口を開き、口をうごめかしている。何か言いたくても、言葉にならないらしい。
「これでお判りでしょう。他ならぬこの私は、その少女がそも誰であるかを知っているのです。それが何よりの証拠となりませんか?」
「き、貴様」
尚凞は憎悪に燃える瞳で暗行御使―凛花を睨んだ。
「貴様は最初から儂を嵌めるつもりで屋敷に来たのか!」
「そうだと申したら、どうします?」
凛花は妖艶に微笑んだ。尚凞が息を呑む。
まさにこの暗行御使こそが昨夜、尚凞の腕の中にいた―あの艶めかしくも見事な肢体を持った少女であった。
「虎穴に入らずんば虎児を得ずといにしえから申します。捨て身の覚悟を持たなければ、あなたとの闘いに勝ち目はないと思いましたので」
「では、道端で風に飛んだ手巾を拾い、儂の前に姿を現したのも―すべてが貴様の仕組んだ筋書で、儂はそれにまんまと躍らされておったと?」
「おっしゃるとおりです。趙県監(チヨンヒヨンガン)」
「く、くそっ」
尚凞は悔しげに歯ぎしりをし、握りしめた拳でダンと地面を叩いた。
しかし、娘はいつまで経っても現れない。
もしやと、尚凞はかすかな希望を抱いた。
「御使さま。その娘とやらは一体、どこにおるのですかな? 儂には一向に見えませんが」
と、暗行御使が庭へと続く階段をゆっくりと降りてくる。真っすぐに尚凞の手前まで歩いてきて、止まった。
「よおく眼を開けて見て下さい。私のこの顔をお忘れですか?」
暗行御使はそう言いながら、被っていた羽根つきの帽子を脱いだ。
「―?」
尚凞が首を傾げ、眼を眇める。若い御使の顔をしげしげと眺め入り、〝ああっ〟と烈しい驚愕の声を洩らした。
「そ、そなたはっ」
尚凞は惚けたように大口を開き、口をうごめかしている。何か言いたくても、言葉にならないらしい。
「これでお判りでしょう。他ならぬこの私は、その少女がそも誰であるかを知っているのです。それが何よりの証拠となりませんか?」
「き、貴様」
尚凞は憎悪に燃える瞳で暗行御使―凛花を睨んだ。
「貴様は最初から儂を嵌めるつもりで屋敷に来たのか!」
「そうだと申したら、どうします?」
凛花は妖艶に微笑んだ。尚凞が息を呑む。
まさにこの暗行御使こそが昨夜、尚凞の腕の中にいた―あの艶めかしくも見事な肢体を持った少女であった。
「虎穴に入らずんば虎児を得ずといにしえから申します。捨て身の覚悟を持たなければ、あなたとの闘いに勝ち目はないと思いましたので」
「では、道端で風に飛んだ手巾を拾い、儂の前に姿を現したのも―すべてが貴様の仕組んだ筋書で、儂はそれにまんまと躍らされておったと?」
「おっしゃるとおりです。趙県監(チヨンヒヨンガン)」
「く、くそっ」
尚凞は悔しげに歯ぎしりをし、握りしめた拳でダンと地面を叩いた。